研究実績の概要 |
本研究は、一年草の茎頂分裂組織が開花結実後に「死ぬ仕組み」を明らかにすることなどによって、個体死に至る制御系を解明し、植物の個体死そのものを再定義することを目的としている。時間軸に沿ったシロイヌナズナ茎頂のトランスクリプトーム解析を行い、活性酸素種関連遺伝子の発現が茎頂幹細胞の加齢にともない変化し、プログラム細胞死関連遺伝子が誘導されることを見いだした。トランスクリプトームデータと呼応して、活性酸素種であるROSのうち、過酸化水素の量がシロイヌナズナの茎頂部において加齢に伴い上昇すること、同時にフリーラジカルである超酸化物―スーパーオキシドアニオン量は減少することを見いだした。さらに過酸化水素の外的な塗布により幹細胞の決定にかかわる遺伝子の発現が抑制されることを見いだした。また、幹細胞が異常増殖する突然変異体においては、幹細胞の加齢と死のプロセスが遅れることも見いだした。これらのデータに基づいて、一年草シロイヌナズナの茎頂幹細胞の死は、活性酸素種関連遺伝子の発現上昇に伴う幹細胞の維持因子の発現減少による増殖停止プログラムにより誘導されているというモデルを提案し、論文として発表した (Wang,Y. et al. International Journal of Molecular Sciences, 23, 3864. 2022; Wang et al. Plant and Cell Physiology, 10.1093/pcp/pcac155, 2023)。一方、多年草においては、茎頂の幹細胞をこれらのプログラム細胞死から守る経路があることが予想された。以上の解析により、植物の個体死は動物にみられるような時間経過にともなうホメオスタシスの低下の結果ではなく、幹細胞活性をアウトプットとしてプログラムされたものであることがわかった。
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