研究課題/領域番号 |
21K19268
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
原 裕貴 山口大学, 大学院創成科学研究科, 講師 (80767913)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2025-03-31
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キーワード | 核 / 脂質 / クロマチン / 核膜 |
研究実績の概要 |
本年度は、胚発生過程における脂質ダイナミクス解析のための脂質分画法の確立と脂質組成の人為的変動法による核サイズ制御への影響の検証の2項目を中心に研究を進めた。 脂質の定量に関しては、アフリカツメガエルの未受精卵や発生胚から、脂質の単離条件を検討し、既存の細胞質抽出方法を基に、豊富に脂質を含む分画の調製方法を見出した。さらに、分画した脂質溶液中の脂質の種類と量の特定を進めている。 脂質の操作に関しては、アフリカツメガエル無細胞再構成系に対して、単離した脂質分画や精製脂質を添加する実験を進めた。その結果、操作した脂質種により、核サイズの増大速度が変化することを示唆するデータが得られた。 さらに、脂質分画や脂質操作実験の過程で、脂質とは異なる分子ではあるが、核サイズ制御に影響を与える細胞質内分子を特定することが出来た。この分子による新規の核サイズ制御機構の存在を示唆する結果をまとめた論文を作成中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.(当初計画)胚発生過程における核膜の脂質ダイナミクスの解析: 従来法を改良し、未受精卵や胚から脂質を豊富に含む溶液を分画する手法を確立した。2.に示した分画脂質を用いた脂質組成操作実験が進展した一方で、脂質クラスの分類や脂質の種類と量の特定へと展開する人的環境が整わず、期間内での発生過程での脂質ダイナミクスの解析は滞った。 2.(当初計画)脂質組成の人為的変動法の確立と核への影響の検証: 1.で整備した脂質分画法を駆使し、アフリカツメガエルの細胞質抽出液を用いた核のcell-free再構成系において、脂質組成を実験的に変動させる実験を進めた。核サイズ制御に関与する脂質種の同定には至っていないが、特定脂質分画を使用すると核サイズの増大速度が変化する予備的結果を得ることが出来た。今後さらに、様々な脂質種の変動実験を推進することで、核サイズ制御に関与する脂質種の同定と共に、脂質種の作用の理解が円滑に進むことが期待される。 3.(新規方向性)細胞質分子と核サイズ制御の相互関係の理解: 脂質の分画や操作実験の過程で、脂質とは異なる分子ではあるが、核サイズ制御に影響を与える細胞質内分子を特定することが出来た。この分子による新規の核サイズ制御機構を示唆する結果をまとめた論文を作成中であり、脂質以外の面からも核サイズや核機能の制御機構の理解を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
1.(当初計画)胚発生過程における核膜の脂質ダイナミクスの解析: 異なる細胞条件から単離した脂質の組成を、大規模脂質種解析のリピドーム解析へと展開する。これにより、胚発生過程の核サイズ変動と、脂質組成の変化との相関関係を理解する。 2.(当初計画)脂質組成の人為的変動法の確立と核への影響の検証: アフリカツメガエルの細胞質抽出液を用いた核のcell-free再構成系における、脂質組成の操作実験を継続する。同時に、核機能の評価対象を核のサイズ増大速度だけでなく、脂質膜と相互作用する核ラミナ構成タンパク質や能動的輸送に関わる核膜孔複合体の局在解析へと展開する。 上記内容に関しては、研究代表者に加え、研究代表者研究室所属の学部生2名と技術補佐員1名により分担し、円滑に研究を遂行する環境を整える。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画の「脂質ダイナミクスが核サイズや核機能制御に与える影響の解析」に関して、脂質膜が与える影響と共に、別観点の細胞内分子が核サイズを制御する新規機構の理解が大きく進展した(現在論文作成中)。これらの成果を基に獲得に繋がった他助成金によって、本研究と共通して使用する試薬・器具・機器を整備することが出来たため、次年度に使用する予算が生じた。研究環境面に加え、研究内容面でも、当初計画(未完了)の「脂質ダイナミクスの定量」を進展可能な基盤手法の確立に至った。これらの状況をさらに進展させるために、次年度に本予算を使用することで、特に未完了部分の「脂質ダイナミクスの定量」の解析を重点的に行う。
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