塩化コリンとN-アリルグリシンをコムギプロトプラストに処理すると光合成活性が約10%上昇することが知られている。そこで、塩化コリンやN-アリルグリシンが植物の生長に与える影響を調べるために、6 μMの塩化コリンまたはN-アリルグリシンをシロイヌナズナやBrassica rapa sp. onoena (尾上菜) に処理したところ、乾燥重量が約10%から25%増加した。次に、この生長促進と光合成促進活性との関係を調べるために、尾上菜とシロイヌナズナに塩化コリンまたはN-アリルグリシンを葉面散布と灌注処理し、光合成活性を測定したところ、処理後6日目までに光合成活性が約15%から25%上昇した。そこで、このような光合成促進と生育促進の関係を明らかにするために、光合成活性を有するシロイヌナズナT87培養細胞と光合成活性を有さないイネOc細胞とタバコBY-2細胞に塩化コリンとN-アリルグリシンを処理したところ、T87培養細胞では生育促進が認められたが、Oc細胞とBY-2細胞では生育促進が認められなかった。このことから、コリンとN-アリルグリシンによる生育促進は光合成活性の促進に起因することが初めて明らかになった。そこで、光合成促進の機構を調べるため、尾上菜に塩化コリンまたはN-アリルグリシンを処理し、発現変動する遺伝子をRNAseqで調べたところ、塩化コリン処理とN-アリルグリシン処理で処理後3日目では761個、処理後6日目では1458個の遺伝子の発現が共通して上昇していた。これらの遺伝子についてGOエンリッチメント解析を行ったところ光合成の電子伝達系に関わる遺伝子が含まれていた。以上の結果は、塩化コリンおよびN-アリルグリシンは共通の経路を介して光合成の電子伝達系を促進することで生育促進を引き起こしていることを示している。
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