研究課題/領域番号 |
21K19284
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
内海 俊介 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 准教授 (10642019)
|
研究分担者 |
日浦 勉 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (70250496)
|
研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
|
キーワード | 標本 / 進化的救助 / ミュゼオミクス / 徘徊性昆虫 |
研究実績の概要 |
気候変動・生息地断片化・外来種などの人間活動に関連する環境変化が深刻さを増しており、それによる生物の絶滅が急速に進行している。それに対し、環境ストレスに適応する、野外生物の迅速な進化によって絶滅が回避される進化的救助という新しい理論が注目を集めている。進化的救助とは、環境ストレスに対する生物の迅速な適応進化のポテンシャルを予測し、自然生態系における適応進化を制御することを通して、野外生物の保全に繋げようというこれまでに人類が成したことのない新しい挑戦である。しかし実践は容易ではない。そもそも自然生態系での実験検証が困難であり、それが進化的救助の研究の進展を妨げている。そこで本提案は、ミュゼオミクスという新興アプローチからこの分野のブレークスルーを起こそうというものである。博物館の自然史標本の生化学・分子情報を網羅的に抽出し、それにより進化史や遺伝的多様性の変遷などを推定しよういうのがミュゼオミクスである。本研究は、広域長期モニタリングによって集積された標本を対象とすることによって、集団や群集という個体よりも上位の生物階層パラメータまでも紐付けた新規なミュゼオミクスに取り組む。すなわち、過去から現在までの地球気候変動(気温上昇)・適応的な対立遺伝子頻度の変化・集団サイズの変化の3つを関連付けて解析することによって、野外生物における進化的救助の実態と意義を世界に先駆けて明らかにすることが目的である。 本年度は、この目的に対する基礎的な準備を進めた。まず、野外調査により、クロツヤヒラタゴミムシ野外個体の採集と飼育を行い、ロングリード解析の基礎となる良質で大量のゲノムDNAの抽出をすることが出来た。また、クロツヤヒラタゴミムシの標本の一部からDNA抽出を試みた。標本からのDNA抽出は部分的に成功し、標本の年代が古くなるほど抽出できる量は少なくなる傾向にあることがわかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究種の対象種として、ツヤヒラタゴミムシ類を選定して研究を遂行した。野外調査によりサンプル収集に成功し、良質なゲノム抽出までは進展したが、ロングリード配列の解析によるミトゲノム配列の決定が終了していない。また、標本資料による過去のDNA抽出を試みた。一部ではDNA抽出に成功しているが、上記のようにミトゲノム配列の決定が完了していないため、プローブの設計と解析などの下流の解析が実施できていない。
|
今後の研究の推進方策 |
クロツヤヒラタゴミムシのゲノムについてのロングリード解析を完了させ、ドラフトゲノム情報を得ることにまず注力する。この情報をもとにプローブ・セットを設計し、標本DNAに対するターゲット・エンリッチメントを実施する。 通常のNGS解析には高品質DNAが大量に必要である。しかし、標本ではDNAの劣化が進行している。そこでターゲット・エンリッチメント(TE)を行う。TEとは、ゲノムの任意領域のプローブ・セットを設計してハイブリダイゼーションを行う方法で、劣化が進んだDNAでもミトゲノムやエキソームなどさまざまなゲノム解析が可能になる。古代DNAの解析で成果をあげている[7]。本研究では、新規にゴミムシ個体を採集して、温度上昇実験下にて飼育してRNA-seqを行い、①ツヤヒラタゴミムシのエキソームのプローブ設計、②温度上昇によって発現に影響を受ける候補遺伝子群の推定、を行う。このプローブによりTEを実施し、②の遺伝子群に着目して20年の対立遺伝子頻度の時系列変化を解明する。加えて、ドラフトゲノムからミトゲノムに絞ったプローブ設計も行い、ミトゲノムにおける遺伝的多様性の時系列変化も明らかにする。これにより、進化的救助だけでなく遺伝的救助の相対的貢献も推定できる。気温変化と遺伝子頻度の時系列データは非線形力学モデルによる因果推定を行う。対照的な個体数変化パタンを示す苫小牧・雨龍サイト等少数サイトに絞り、解析を進める。
|