気候変動や生息地断片化などの人間活動に関連する環境変化が深刻さを増しており、それによる生物の絶滅が急速に進行している。それに対し、環境ストレスに適応する、野外生物の迅速な進化によって絶滅が回避される進化的救助という新しい理論が注目を集めている。進化的救助とは、環境ストレスに対する生物の迅速な適応進化のポテンシャルを予測し、自然生態系における適応進化を制御することを通して、野外生物の保全に繋げようというこれまでに人類が成したことのない新しい挑戦である。しかし実践は容易ではない。そもそも自然生態系での実験検証が困難であり、それが進化的救助の研究の進展を妨げている。そこで、ミュゼオミクス・アプローチからこの分野のブレークスルーを起こそうというものである。自然史標本の活用により、それにより進化史や遺伝的多様性の変遷などを推定しよういうのがミュゼオミクスである。本研究は、広域長期モニタリングによって集積された標本を対象とすることによって、集団や群集という個体よりも上位の生物階層特性も紐付けた研究に取り組んだ。本年は、野外調査により、クロツヤヒラタゴミムシ野外個体の採集と飼育を行い、ロングリード解析を行うことができた。また、クロツヤヒラタゴミムシの標本190個体からDNA抽出を実施した。抽出には、後肢1本を使用し、非侵襲的に行うCTAB法と、サンプル粉砕によるカラム法の両者を行った。DNA収量少なかったものの、多くの個体から抽出ができた。さらに、標本データの分析から、全国各地における個体重量の年変動に興味深い共通パターンがあることが見出された。個体数変動のデータもあわせた解析を行ったところ、複雑な生活史形質の変化の影響が推察された。そして、標本から得られたDNAについて、ターゲットエンリッチメントによる解析を実施した。さらに野外サンプルについての形質分析とRNA-seqを実施した。
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