性淘汰において、配偶相手の質や繁殖ステイタスを表す情報は非常に重要である。頭足類の種内コミュニケーションには視覚情報が重要であり、視覚情報として偏光を識別できることや、体表面の一部が偏光を反射することが明らかとなっている。そこで本研究は、頭足類を用いて、交尾前・交尾後の性淘汰過程における偏光利用とその適応的意義を世界で初めて明らかにするため、1) 交尾前性淘汰が重要と考えられるエゾハリイカを用いて、求愛ディスプレイに変更を利用しているか、2) 交尾後性淘汰が重要と考えられるヒメイカを用いて、雌の交尾経験を示す偏光特性は雄の配偶者選択や精子配分戦略に影響しているか、を。 その結果、1)エゾハリイカの性的二型腕は、求愛ディスプレイ時に雌から手前側の腕は垂直の偏光角度を示し、ねじって持ち上げた状態で雌に提示された奥側の腕先端は水平の偏光角度を示すことにより、強い偏光コントラストを生み出すことを示した。求愛時の雌への腕の提示角度は、偏光度を最大化する角度に最適化されていた。また、偏光を反射する虹色素胞の配置と虹色素胞内の反射板の角度の組織学観察を行い、本種の性的二型腕は、偏光反射を広範囲で増強すること、偏光反射の指向性を強め特定のターゲットに向けて求愛シグナルを発することに適応していることを明らかにした。 また、2) ヒメイカの雄が貯蔵精子量を認識し、それに応じた射精戦略をとっているかを検証する行動実験を行った。貯精嚢内に精子があるが精子塊は付着していない雌、貯精嚢内に精子は無いが雄から直接交接経験が確認できる精子塊が体表面に付着している雌、貯精嚢内に精子が無く精子塊も付着していない雌を使って、雄との交接実験をそれぞれ12例行った。その結果、いずれの実験区においても射精量に違いは見られず、ヒメイカの雄は雌の精子貯蔵量に応じた射精量の調節を行っているという予測は当てはまらなかった。
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