研究課題
まず本年度は,ヤマトシロアリのdoublesex (Rsdsx) と相互作用する下流遺伝子の候補を探索した。具体的には,モチーフ検索ツール HOMER v4.11を用いて,キイロショウジョウバエで報告されているdsxの結合モチーフ配列(全24種類)を,ヤマトシロアリのゲノムデータ(Rspe OGS1.0)から網羅的に探索し,Rsdsxの標的遺伝子の候補をリストアップした。全exonの隣接領域の上下流3.0 kbからintronとintergenic領域のみを抽出して探索したところ,600以上の遺伝子が標的候補として選定された。これらの候補遺伝子について,Metascapeを用いてキイロショウジョウバエの遺伝子データベースを利用したGOエンリッチメント解析を行なったところ,形態形成に関する複数のGO termが有意であると判定された。続いて,先行研究で示されている雌雄の生殖虫の胸腹部のRNA-seqデータと付き合わせ,雌雄で有意な発現差のある遺伝子 (FDR < 0.05,約70遺伝子) を絞り込むことができた。RNA-seqにより雄生殖虫で高発現することが示されていたpiwi-like protein Siwi(piwi)やB-box type zinc finger protein ncl-1(ncl-1)など,他の動物で寿命や繁殖の調節に関係する遺伝子が含まれていることが判明した。今後,それぞれの候補遺伝子とRsdsxとの関係について,更に詳しく解析する予定である。また本年度は,ヤマトシロアリの性決定遺伝子群の詳細なアノテーション結果を含む,本種の新規ゲノム解析の結果を論文化した。
3: やや遅れている
RsdsxのRNAiで効果的な発現低下を引き起こすことができず,リストアップされた候補遺伝子とRsdsxとの関係を詳しく調べることができていない。RNAiの方法やインジェクションのタイミングなどを再検討する必要がある。また,Rsdsxのペプチド抗体の作製が進んでいないため,ChIP-Seqによるターゲット遺伝子の網羅的解析を行うことができていない。高品質なペプチド抗体の作製はコストと手間がかかるため,安価な抗体をなるべく早く作製し,候補配列を幅広く取得することを試みる予定である。さらに,系統的に祖先的および派生的なシロアリの別種でのdsxホモログの取得も試みたが,特定には至っていない。発現量が低くcDNAからの配列取得は難しい可能性があるため,今後はゲノムDNAからの直接取得も同時に目指す。
まず,Rsdsxの特異的抗体を作製し,ChIP-Seqによるターゲット遺伝子の網羅的解析を行う。報告済みのヤマトシロアリのゲノム配列を用いて相互作用する部位を検出し,近傍の遺伝子配列を取得する。それらのGOエンリッチメント解析やKEGGパスウェイ解析を行い,Rsdsxのターゲットとなる遺伝子の候補をリストアップする。また,昨年度にリストアップされたRsdsxと相互作用する候補のうち,寿命と関係する可能性の高い遺伝子はin situハイブリダイゼーション法を用いて発現部位を調べると共に,異なる発生ステージや部位別の発現解析を行って作用機序を整理する。さらに,RsdsxのRNAi効率を引き上げるために,さまざまなターゲット領域のsiRNAを作製して検討する。RNAi法による発現抑制がうまくいかない場合には,胚発生期におけるCRISPR-Cas9を用いたゲノム編集により,G0世代のモザイクKO個体の作出が可能かも検討する。
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Proceedings of the National Academy of Sciences
巻: 119 ページ: e2110361119
10.1073/pnas.2110361119
http://www3.u-toyama.ac.jp/maekawa/maekawa-lab/research19.html
https://www.u-toyama.ac.jp/news-education/32689/