昨年度から引き続き,ゲノムが明らかになっているヤマトシロアリと他3種(ヤマトシロアリと同属別種のR. lucifugus,同科のイエシロアリCoptotermes formosanus,別科のナタールオオキノコシロアリMacrotermes natalensis)のdoublesex(Dsx)の同定と,標的となる下流遺伝子を探索した。モチーフ検索ツールHOMER v4.11を用い,転写開始点の上流3kbにおけるDsxの結合領域を網羅的に調べた。その結果,ヤマトシロアリとR. lucifugusでは,Dsxの標的となる候補遺伝子の多くが共通していた。しかし,系統的に異なる他2種とヤマトシロアリでは,共通する候補遺伝子はほぼ見つからなかった。つまりDsxの下流は,当初の予想よりも多様化している可能性が高いことが明らかになった。但し,ヤマトシロアリとR. lucifugusで共通して見つかった候補遺伝子には,他の動物で精子形成や寿命調節に働くことが知られる遺伝子が含まれていた。これらの遺伝子は,ヤマトシロアリにおけるDsxのRNAiによる発現解析の結果,Dsxの標的であることが示唆された。ヤマトシロアリとR. lucifugusは,両種とも雌生殖虫は単為生殖能をもち,雄生殖虫の寿命は長いと考えられる。従って,これらの遺伝子がDsxの下流で働く長命化遺伝子ネットワークを構成する可能性はある。以上の結果は,関連する複数の学会と学術論文で発表した。更に本年度は,上記以外の種のトランスクリプトームデータを新規に取得または再解析し,シロアリ全体でDsxの特徴が保存されているのかを調べた。その結果,Dsxの遺伝的な構造や発現パターンは科レベルで大きく異なることが明らかになった。これらのDsxの多様性が如何なる意味を持つのかは,シロアリの生物学における今後の重要な課題になると考えられる。
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