研究課題/領域番号 |
21K19297
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤本 仰一 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (60334306)
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研究分担者 |
Sarper Safiye 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 訪問研究員 (90899915)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 進化発生 / 対称性 / 刺胞動物 / 数理モデル / 形態形成 |
研究実績の概要 |
刺胞動物の器官配置の多様な対称性形成過程の共通性と差異を明らかにすべく、実験試料のサンプリングや器官配置を計測できる実験系構築を進めた。コロナ禍でフィールドワークは計画より大幅に少なくせざるを得なかったが、タテジマイソギンチャクやミズクラゲをはじめ複数種の刺胞動物について、国内のフィールドから試料を得ることができた。 タテジマイソギンチャクでは、器官(胃袋)の配置の対称性と数が個体ごとに確率的にばらつくこと(種内多型)を、我々は今年度に報告した。さらに我々は、野外採集した個体を用いて、研究室での長期にわたる飼育条件の検討と、器官配置の種内多型を生み出すと思われる無性生殖の誘導実験系を確立した。この系によって、アダルトの個体の一部分(裂片)をピンセットなどでちぎり、他のシャーレに移して観察することが可能になった。上述の論文では、対称性の種内多型の発生要因として、無性生殖初期の裂片に含まれる器官(胃袋やサイフォノグリフ)の配置と数の確率性を我々は予想している。この仮説を検証すべく、多様な胃袋の配置・数を含む裂片を用意し、顕微鏡で胃袋の形成をタイムラプス手法で追っている。実験室で無性生殖を誘導させできた個体は80パーセント(20/25)成長し、胃袋および器官を全体的に再生させている。 ミズクラゲのポリプでは、器官(触手)が配置する過程を詳細に観察できた(13個体)。どの個体においても、8本の触手形成時には放射対称であるが、9本目以降に配置する触手の位置やタイミングはほぼランダムであった。しかしながら、16本の触手が形成されると放射対称性が再び現れることを見出した。これら9―16本目の触手と、両側に隣接する触手との距離を測定すると、前者の触手を形成する時間が長くなるほど、隣接する2つの触手の中間地点に近づくことを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
タテジマイソギンチャクについては、本研究が目標とする「器官配置の対称性とその種内多型の構成的理解」について、器官配置の対称性とその種内多型を再現する数理モデルを構築し、3種類の因子(側方抑制、側方促進)が各器官から分泌されることを予測できた。この予測の検証をすべく、対称性とその多型の発生過程を誘導できる実験系を構築できた。この系において、器官配置は2週間程度で完了する上に、その過程を観察できるので、「対称性の構成的理解」を推進できる。 ミズクラゲについても器官配置過程を詳細に記述することができたことで、本計画のもう1つの目標である「対称性の発生過程の種間比較」が可能となった。タテジマイソギンチャクの器官配置過程と比較することで、ミズクラゲの一部の器官が出現する位置とタイミングにランダム性などを見出した。これらの知見は、本計画が最終目標とする「刺胞動物の器官配置の多様性を統一的に説明するモデル構築」の重要な情報となる。
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今後の研究の推進方策 |
タテジマイソギンチャクでは、器官配置過程の解析を通じて、配置の対称性が現れる過程を記載する。並行して、配置が左右対称および放射対称となる裂片の特性(胃袋の種類や数など)を明らかにすることで、「種内多型の構成的理解」を進める。 クラゲ、イソギンチャク、および、ヒドラの器官(触手や胃袋)の配置過程の記載を進める。並行して、これらの空間配置パタンを再現する数理モデルを試作し、配置の制御因子の働きを推定する。これらの因子の同定を目指して、複数の遺伝子についてその発現の空間パタン(in situ hybridization)を様々なステージで見る。並行して、これらの動物で阻害剤等による発現抑制の実験系構築を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19感染拡大により、予定していた野外調査を実施できなかった。 購入を予定していた顕微鏡等について、所属研究機関の共有機器の顕微鏡を使うことで、今年度に予定していた研究を遂行できたため、顕微鏡等を購入しなかった。
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