研究課題
オオミジンコにおいて、哺乳類の de novo DNA メチル化酵素3 (DNMT3) のオーソログをコードしている DNMT3.1 遺伝子は、オオミジンコが摂取するエネルギーの減少に伴って発現し、成長と繁殖の間のエネルギー分配を決定する。これは、DNMT3.1 発現細胞がエネルギー分配の中枢細胞であることを強く示唆するものである。DNMT3.1 が制御する遺伝子ネットワークを明らかにするために、本年度はDNMT3.1 遺伝子座に蛍光タンパク質遺伝子をノックインし、DNMT3.1 発現細胞を蛍光ラベルすることを試みた。DNMT3.1遺伝子のイントロンを狙って切断するTALEN を設計し、TALEN mRNA を in vitro で合成した。また、DNMT3.1と蛍光タンパク質 mNeonGreen が 2A ペプチドを介してバイシストロニックに発現するようにドナープラスミドを設計した。産卵直後の卵を解剖により集めTALEN mRNA を卵に注入したところ予想外に胚発生が停止し、注入個体が仔を産むまで成長しないことが判明した。TALENは、ミジンコに対して毒性が低いことが以前に証明されているヘテロ二量体化TALENを使用しているため、またTALENペアを片方ずつ発現させると発生が停止しないことから、TALENペアによる標的配列の切断、変異導入がミジンコの胚発生に影響を及ぼしていることが示唆された。このように、2021年度においては目的の遺伝子組換え体を作製することができず、飢餓状態における DNMT3.1発現細胞のトランスクリプトーム解析、DNAメチル化解析を行うことができなかった。
3: やや遅れている
TALEN mRNA の卵への注入により予想外に胚発生が停止したため、DNMT3.1発現細胞を可視化できる遺伝子組換えミジンコを作出することができなかった。
プラスミドのノックインにより DNMT3.1機能が復帰し胚発生が通常通り進むと予想されることから、TALEN mRNAとプラスミドを卵に共注入し生き残った個体をノックイン個体の候補として、目的の形質転換体をスクリーニングする。また並行して、切断、変異導入によって胚発生に影響を及ぼさないTALENペアを探索し、これを用いたノックイン実験も試みる。そして、形質転換体を利用して飢餓ストレスを与えた個体からDNMT3.1発現細胞を蛍光により分取し、トランスクリプトーム解析、DNAメチル化解析を行う。その後、当初の計画通り、飢餓ストレス以外の温度、重金属、農薬などの環境要因に依存したDNMT3.1発現細胞の遺伝子発現、DNAメチル化解析と統合することで、DNMT3.1によって制御される遺伝子ネットワークを解明する。
DNMT3.1遺伝子座への蛍光タンパク質遺伝子のノックインに使用するTALENがミジンコに対して予想以上に高い毒性を示すことが判明し、目的の遺伝子組換え体を作製することができず、これを用いた細胞解析を依頼することができなかった。このため解析依頼経費が未使用になってしまった。しかし本解析は研究遂行に不可欠であるため、2022年度は当初計画通りの研究実施に加え、2021年度から繰り延べた解析依頼も行う予定である。未使用額は当初目的のまま、この解析依頼経費に充てる。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件)
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