研究実績の概要 |
クロロフィルおよび光受容能があるクロロフィル前駆体は単体で光を受容すると活性酸素を生み出す“光毒性”を呈する(以下、光毒性色素と表記する)。よって非光合成生物にとって光毒性色素は有毒分子であり、非光合成生物では合成されないとされてきた。一方で、代表者は単細胞真核生物のCryptomonas属で、3つの系統的に独立の非光合成生物が光毒性色素を合成する酵素遺伝子をもつことを明らかにした(Tanifuji et al. 2020, GBE) 。本研究では、非光合成生物の光毒性色素は機能をもち、多様な生物により環境に寄与するのではないかと仮説を立て、培養可能な生物を用いた実験系と環境メタゲノミクスを組み合わせた両輪を有する研究スタンスで、非光合成生物のクロロフィル合成系の機能と多様性の解明を目指した。 初年度の培養実験+全遺伝子変動解析は計画通り完了し、光条件に依存した遺伝子発現パターンの変動を検出した。本年度は発現変動が見られた遺伝子群についてfunctional annotationを行い代謝マップと照らし合わせた。その結果、既存の機能遺伝子よりは機能未知の遺伝子群の発現変動が多く、より生理学的アプローチが必要であることが示唆された。環境メタゲノミクスに関しては、計画通りに本年度も国立科学物館実験植物園内(つくば)の水生植物区画の各地点を夏・冬で2回サンプリングを行った。初年度の結果と同じく同じ水系であっても季節ごと、地点ごとで微生物相が異なる結果を得た。また、海産のサンプルを用いたメタゲノミクスアプローチにより、真核生物サイズの細胞にこれまで知られていなかった新規系統のシアノバクテリアが共生していることが示唆された。今後初年度との比較解析から公表を行う。
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