研究課題
ヒトの大脳は、マウスなどに比べて著しく発達していることが特徴的である。このような発達した大脳構築の分子遺伝学的解析はマウスを用いて行うことが困難であることから、我々は新たなモデル動物の必要性を考え、食肉類哺乳動物フェレットに着目してきた。フェレットは大脳が大きく、脳回を持つなど大脳が発達している。我々はこれまでに、ヒトやサルで見いだされていたU線維に着目した研究を進めてきた。U線維は大脳皮質直下にある短連合線維であり、近隣の大脳皮質の機能的連合に重要と考えられている。我々のフェレットの遺伝子操作技術を用いた研究の結果、フェレットにもU線維が存在すること、U線維は大脳皮質2/3層および5/6層に由来することなどを発見した。そこで本研究課題では、これらの研究成果を足がかりとして、これまで不明であったU線維の詳細な特性解析を目的としている。これまでにフェレット大脳皮質のU線維領域を各種染色を用いて解析した結果、U線維領域はさらに特徴の異なる2つの領域に分けられることを見いだした。現在この2つの領域の特性を詳細に解析している。U線維は認知症における重要性も指摘されており、本研究課題の成果は臨床医学的もしくは社会的な波及効果も大きい。また高等哺乳動物にはU線維以外にも、様々な特徴的な神経回路が存在することから、本研究課題の成果はそれらにも幅広く応用が可能であるなど発展性も大きい。
2: おおむね順調に進展している
フェレット大脳皮質を用いてU線維領域を各種染色などを用いて詳細に解析した結果、U線維領域はさらに特徴の異なる2つの領域に分けられることを見いだした。フェレットの大脳の様々な領域から調整したサンプルを用いて髄鞘染色を行い、U線維の髄鞘の特徴を観察した結果、U線維領域の中には髄鞘染色で濃く染まる領域と薄く染まる領域の2つの亜領域が存在していることを見いだした。これらの領域に大脳皮質の神経細胞由来の短連合線維が存在するかを検討するため、コレラトキシンBサブユニット(CTB)を大脳皮質へ注入したところ、CTB陽性軸索がいずれにも存在していることを見いだした。現在、二つの領域の構造的特徴を電子顕微鏡を用いて解析している。このように大脳に新しい線維領域を見いだし、解析を進めていることから、研究は順調に進行していると考えている。
我々が新たに見いだしたU線維領域内の2つの異なる領域の特性解析を進める。電子顕微鏡を用いて解析し、軸索の直径や髄鞘の特性を明らかにしたのちに論文としてまとめる。
我々は食肉類哺乳動物フェレットに着目し、ヒトやサルで見いだされていたU線維に着目した研究を進めている。我々のフェレットの遺伝子操作技術を用いてU線維の詳細な特性を解析する予定であったが、新型コロナウイルス感染症などにより、フェレットの輸入が困難となったために次年度使用額が生じた。その間にプラスミドなど予め準備可能な実験資材の準備を進め、またフェレットの入手状況が改善しているために、令和5年度中には当初予定していた実験は行うことができると考えている。物品費を用いてプラスチック器具、酵素類、実験動物などの消耗品を購入する。また研究打ち合わせ、成果発表を行うための出張旅費を計上した。その他として、英文校閲費用、論文投稿料や掲載料を計上している。
すべて 2023 2022 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 2件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
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