研究課題
自然免疫細胞である、ミクログリアに「記憶」があるのか、有るとすればそのメカニズム及び脳機能に与える影響は何か?を明らかにするプロジェクトである。本年は先ず、全身の感染を模したLipopolysaccharide(LPS)を投与すると、それをミクログリア脳で感知して活性化すること、この経験が記憶となって残ることで「虚血耐性」「虚血増悪」が起こるかどうかに関する検討を行った。先行した軽度の脳卒中(虚血)を経験すると、その後の脳卒中に対する耐性が獲得できることが知られている。これは「虚血耐性」と呼ばれ、臨床的にも実験的にもよく研究されている。また逆に、超軽度の虚血を経験した脳は、虚血に対するプライミング状態となり、その後の脳卒中に対してより大きな障害を起こす(虚血増悪)。いずれにしても、先行する軽度脳虚血(プレコンディショニング)が記憶されることで、その後の応答が大きく変化する。この虚血耐性及び虚血増悪におけるミクログリアの関与を明らかにするため、本研究では先ずプレコンディショニングとしてLPSを使用した。低濃度LPSによる軽度プレコンディショニングでは、ミクログリアは軽度に活性化し、その後、虚血増悪が起こった。高濃度LPSによる重度プレコンディショニングでは、ミクログリアは強く活性化誌、その後、虚血耐性が誘導された。このように、ミクログリアはプレコンディショニング(LPS負荷)を記憶しており、その後の脳機能に大きな影響を与えることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
ミクログリアの様式及びミクログリア記憶が、脳機能(虚血耐性、虚血増悪)に影響している、という証拠を捉えることができたため。
ミクログリアは異なるプレコンディショニング(低LPS、高LPS)を感知すると、その後の脳機能を異なる様式で制御する(虚血増悪、虚血耐性)ことが明らかとなった。本年は先ず、このような虚血増悪、虚血耐性が、本当にミクログリアに依存しているのか否かを明らかにするため、プレコンディショニング時のミクログリアを薬理学的に除去することで、その後の虚血増悪、虚血耐性が起こるか否かを明らかとする。また、低LPS及び高LPS負荷後のミクログリアの細胞生物学的な変化を網羅的に解析し、その後の異なる記憶に繋がる分子メカニズムを明らかとする。
年度途中で動物施設の感染により、新たな研究が長期間ストップし、それ以降の研究ができなくなったため。
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 1件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 8件) 学会発表 (32件) (うち国際学会 4件、 招待講演 7件)
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