免疫細胞の記憶は、T細胞等の獲得免疫細胞の記憶を中心に研究がなされてきた。マクロファージ等の自然免疫細胞は記憶を持たないと考えられてきたが、最近の研究によりこれら自然免疫細胞にも記憶機能があることが明らかになってきた。脳の自然免疫細胞ミクログリアに注目し、ミクログリアが末梢炎症応答を、どのように記憶するのか、またその記憶によりどのような脳機能制御が起こるのか、に関して研究を進めた。末梢炎症を模倣する分子LPSを用い、軽度LPS刺激(1×LPS)及び重度LPS刺激(4×LPS)により惹起されるミクログリアの性質変化とその持続、またその後の脳卒中に対する応答に関する影響を解析した。軽度LPS刺激により、ミクログリアは直ぐに活性化型に変化するが、その応答は一過性で直ぐに静止形に戻った。しかし、プライミング状態を保つことでその記憶を数週間にわたり維持することが明らかとなった。このプライミングミクログリアは炎症応答亢進型に表現型を変化させており、その後の軽度の中大脳動脈閉塞(MCAO)負荷により惹起される脳障害を大きく悪化させることが明らかとなった。一方、重度LPS刺激を負荷したミクログリアは、やはり活性化型に変化するがLPSに対する耐性を獲得する。このLPSに対する耐性の記憶はやはり数週間持続した。この状態では、MCAO負荷による脳障害が大きく軽減されることが明らかとなった。このように、ミクログリアは末梢炎症の程度に応じて異なる表現型に変化し、それらを記憶することでその後の脳機能、脳疾患に対して、異なる制御を行っていることが示唆された。
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