研究課題/領域番号 |
21K19310
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
桐生 寿美子 (瀬尾寿美子) 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (70311529)
|
研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
|
キーワード | 神経損傷 / 神経再生 / 運動ニューロン / 遺伝子発現制御 / タンパク質分解 |
研究実績の概要 |
神経系の中では例外的に、成熟運動ニューロンは神経損傷を受けても再生・修復することが可能である。損傷運動ニューロンには、一旦未分化な状態に逆戻りすることで潜在的な再生能力を賦活化する“リプログラミング”機構が備わっていると考えられる。このリプログラミングを促すためゲノム、転写、タンパク質レベル、細胞間相互作用に至るまでダイナミックな変動が引き起こされると考えらえるがその詳細は不明である。当初ゲノムレベルでの遺伝子発現制御が神経再生・変性の変換点になると考え研究を進めていたが、生死の運命に関わらず神経損傷に応答した運動ニューロンはゲノムレベルでのリプログラミングプロセスを一旦は始動させるポテンシャルを有する可能性が示唆された。そこで遺伝子発現制御以降に引き続いて起こるタンパク質制御の要であるタンパク質分解について検討することにした。このため独自のマウスシステムを用いて損傷を受けた運動ニューロン特異的にプロテアソームを欠損させ、タンパク質分解が積極的に関わるリプログラミング機構を探索した。その結果、成熟ニューロンの細胞体と軸索の間に局在する特殊な構造である軸索起始部をタンパク質分解することで、損傷運動ニューロンは未熟な状態に逆戻りし神経再生を促す強力な駆動力を得ることが明らかになった。一方損傷後変性する運命にある運動ニューロンではこのメカニズムが作動しないことも明らかになった。さらに、損傷運動ニューロンでこのメカニズムを適切に作動させるためには周囲グリア細胞との相互作用が重要である可能性が次第に明らかになってきた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
損傷運動ニューロン特異的にGFP標識し遺伝子操作できるAtf3:BAC Tgマウスの特性を生かし、タンパク質分解制御により損傷運動ニューロンが未熟な状態に戻り再生能力を賦活化する予想外の新たな仕組みを明らかにすることができた。本研究により損傷運動ニューロンのリプログラミング機構の解明を一歩前進させることができたと考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
神経損傷という緊急シグナルを感知した周囲細胞との相互作用が損傷運動ニューロンの選択的タンパク質分解を制御しリプログラムを進める可能性が高いことから、Atf3:BAC Tgマウスを用い両者の相互作用やそれに関わる遺伝子発現制御について探索を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新たなアプローチで実験計画を遂行するため次年度使用が生じた。令和5年度はこの実験計画に必要なマウス購入・維持に関する費用と、それらマウスを用いた実験に必要な試薬の購入や共通機器使用の費用に割り振る。
|