研究課題/領域番号 |
21K19317
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
松尾 和哉 京都工芸繊維大学, 分子化学系, 助教 (90764952)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | スマートドラッグ / 分子内転位反応 / 阻害剤 / HDAC |
研究実績の概要 |
既存の薬剤の約50%は、標的酵素と特異的に結合することで効果を発揮する酵素阻害剤である。例えば、抗癌剤の中にも、酵素を標的とした抗癌剤があるが、正常な細胞や組織においても、少なからず標的酵素は発現しており、これを阻害することによって、多大な副作用が発生し、患者のQOLや予後を大きく低下させる。本研究では、この課題を解決すべく、標的酵素を自ら感知し、効果を発揮する“スマートドラッグ”を開発する。具体的にスマートドラッグの概念を実証するため、ヒストン脱アセチル化酵素 (HDAC) を標的酵素とした。ヒストンのアセチル化はコアヒストンN末端領域に存在するいくつかのLys残基のアミノ基で起こり、クロマチン構造の調節を通して転写活性に影響を与える。HDACは、アセチル化Lysを加水分解する酵素で、発癌過程で生じる遺伝子発現異常の多くに関与するため、HDAC阻害剤は抗癌剤として機能することが知られる。 研究初年度は、まずHDAC用スマートドラッグをデザインし、合成を試みた。NBD (nitrobenzofurazan) 骨格を基盤とし、キーとなる分子内転位反応を設計し、HDAC活性中心に存在するZn2+へと作用するヒドロキサム酸骨格と結合させる検討を行なったが、ヒドロキサム酸誘導体のLossen転位が優先してしまい、当初デザインした化合物の合成は難しかった。そこで、Zn2+への作用部位を変更したデザインを採用することで、新たな化合物の合成を行い、それを用いた分子内転位反応の確認を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度はスマートドラッグの概念を実証するための化合物の設計・合成および一部解析を行った。当初計画した化合物に関しては、別の転位反応が優先してしまい、合成できなかったものの、新たに設計・合成した化合物に関しては、計画した分子内転位反応が進行することを確認したため、当初の目的に対しておおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に確立したスマートドラッグの候補化合物を用い、より詳細な転位反応の解析やHDAC阻害活性等を検討する。また、HDACの活性量に応じた阻害効率を示すことを確認し、スマートドラッグのコンセプトの確立を行う。さらに、スマートドラッグの汎用性を示すため、HDAC以外の標的酵素への拡張も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初旅費を計上していたが、新型コロナの影響によりオンライン開催となったため、旅費を支出しなかったため次年度使用額が生じた。
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