研究課題/領域番号 |
21K19321
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
斎藤 芳郎 東北大学, 薬学研究科, 教授 (70357060)
|
研究分担者 |
外山 喬士 東北大学, 薬学研究科, 助教 (50720918)
|
研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
|
キーワード | メタロミクス / セレン / 水銀 / 糖尿病 / ICP-MS / 鉄 / セレノプロテインP / コホート研究 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ICP-MSを用いた網羅的な重金属・微量元素解析“メタロミクス”を駆使し、重金属・微量元素の多様な変化と生活習慣病や炎症性疾患との関連性を理解する新たな学術大系「疾患メタロミクス」を確立することである。応募者の研究からも、必須微量元素セレン(Se)を含む血漿タンパク質セレノプロテインP(SeP)が、2型糖尿病患者で増加し、増加したSePが糖代謝を悪化する“悪玉”として作用することが明らかとなった。他方、環境汚染物質である水銀(Hg)がSePと強固に相互作用し、SePの生理機能を抑制することも分かってきた。本研究では重金属と微量元素の相互作用に着目し、SeP KOマウスの重金属・微量元素レベルをICP-MSを用いて網羅的に解析した。その結果、SeP KOマウスの血液および各臓器において、セレンや水銀だけで無く、鉄(Fe)やモリブデン(Mo)、銀(Ag)、硫黄(S)レベルが顕著に変動する事を見いだした。この結果は、SePがセレンや水銀の体内動態だけでなく、多様な重金属・微量元素レベルに影響を及ぼすことを示している。本研究では、SePが増加する2型糖尿病やがん、あるいはSePが低下するSe欠乏や炎症性疾患のマウスモデルについてメタロミクス解析を行い、重金属・微量元素の変化と病態との関連性を明らかにする。 SePと鉄代謝の関係性について、SePをKOした肝細胞を作成し、リソソーム内における二価鉄の産生について解析を行った。その結果、SeP KO細胞ではリソソームの酸性化が低下し、二価鉄の生成も低下することが明らかとなった。SeP KOマウス血漿における鉄量の減少は、SeP欠乏による二価鉄の減少で説明できると考えられ、SePが鉄代謝に極めて重要な役割を担うことが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
SeP KOマウスからの知見に続き、SeP KO細胞における鉄代謝の変化が観察され、SePが二価鉄の生成(鉄の還元)に極めて重要な役割を果たしていることが明らかとなった。コホート研究からもSePレベルと赤血球量との相関性が見いだされてきており、これらの細胞・動物・ヒトでの関連した知見は、本研究のコンセプトである”重金属・微量元素の多様な変化の理解に基づく分子病態学「疾患メタロミクス」の確立”に向けた大きな進展と捉えている。引き続き、検討を重ねていきたい。
|
今後の研究の推進方策 |
SePと鉄代謝の関連性については、SeP KO細胞を活用し、鉄代謝に関連する因子の変化およびリソソームの酸性化に及ぼす因子の解析から、SePと二価鉄の生成との関連性を分子レベルで明らかにする。さらに、現在進めている東北メディカルメガバンク機構の地域住民コホート研究も継続して行い、鉄代謝とSePとの関連性をヒトにおいても実証するとともに、糖尿病モデルマウスの解析も進め、細胞・動物・ヒトでの解析結果を集約する。さらに、SeP KOで変化が見られている他の元素についても検討を進め、KO細胞での変化およびコホート研究での相関解析、疾患モデルでの解析を進める。本研究では、SePが増加する2型糖尿病やがん、あるいはSePが低下するSe欠乏や炎症性疾患のマウスモデルでのメタロミクス解析を予定しており、重金属・微量元素の変化と病態との関連性を明らかにしていく。
|