研究課題/領域番号 |
21K19325
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
松沢 厚 東北大学, 薬学研究科, 教授 (80345256)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | フェロトーシス / GPX4 / 翻訳後修飾 / 脂質酸化 / プログラム細胞死 |
研究実績の概要 |
フェロトーシスは、生体膜脂質の鉄依存的酸化で誘導される新たな自発的細胞死で、癌抑制効果や循環器疾患発症との関連性から、最近注目されている。脂質酸化消去酵素GPX4は、酸化脂質の除去によってフェロトーシ抑制に働く重要な制御分子である。しかし、フェロトーシス誘導は薬剤やGPX4欠損等の人工的刺激のみであり、内因性因子による生理的刺激が存在せず、その生体での必要性や生理機能、病理的な役割は不明である。その要因は、このGPX4の発現・活性制御機構が不明な点にある。そこで本研究では、独自に同定した内因性フェロトーシス誘導因子によるGPX4の新たな発現・活性制御機構の解析から、その生物学的意義と病態生理学的役割の解明を目指すことを目的とした。 現在までの解析によって、GPX4の発現・活性制御に寄与する内因性の刺激因子や翻訳後修飾関連因子の同定を目的とした独自のスクリーニングを実施した結果、細胞培養液中の血清除去でGPX4が著しく発現減少すること、また、GPX4の直接的な活性阻害にセリン・スレオニンキナーゼ分子Xが寄与することを見出した。今年度は、キナーゼ分子XによるGPX4のリン酸化修飾を介した新たな発現・活性制御機構を明らかにし、フェロトーシスの本質的な生物学的意義に迫る、GPX4のキナーゼ分子X依存的なリン酸化部位の特定のための足掛かりとした。また、GPX4の発現制御のトリガーとなる未知の血清中成分(生理活性分子)の同定のために、血清の熱・変性処理や分画(サイズ・物性等)の条件検討を行い、これらの条件を基にして、次年度の質量分析等を利用した解析を進めるための基盤とすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、フェロトーシス誘導おいて中心的分子となるGPX4の発現・活性制御の分子機構を明らかにすることと、GPX4の発現変化と活性変化のトリガーとなる内因性因子および生理的刺激を見出すことが重要である。 これまでの解析から、ストレス応答キナーゼ分子XによるGPX4へのリン酸化を介して、GPX4の活性が阻害される可能性が明らかとなってきた。キナーゼ分子Xは、活性酸素刺激といった酸化ストレスなどに応答することから、フェロトーシスの誘導に深く関与する酸化脂質との関連性や、キナーゼ分子Xが酸化ストレスを感知して、その情報をGPX4へ伝える生理的意義・合目的性に合致すると考えられる。今年度は、実際のキナーゼ分子XによるGPX4のリン酸化サイトを同定するために、質量分析を利用した実験系の準備を整えた。また、GPX4の発現・活性制御の起点となる内因性の刺激因子や翻訳後修飾関連因子の同定を目的とした独自のスクリーニングの成果として、細胞培養液中の血清除去でGPX4が著しく発現減少することを見出すことができ、未知の血清中成分がそのような内在性因子としての生理活性分子であることが分かってきた。今年度においては、未知の血清中成分の同定のための血清処理や分画の条件を検討し、それらの検討結果から、質量分析等を利用して生理活性分子の解析を進めることが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の検討結果や、解析のための実験条件、確立した実験系を基にして、次年度もフェロトーシス誘導制御分子としてのGPX4の発現・活性制御機構の解明と、そのGPX4の発現・活性変化を誘導する内因性因子の同定を進める。最終的にフェロトーシスの本質的な生物学的意義と、関連疾患の治療戦略開発に繋げたい。具体的には、以下のような計画で研究推進を行う。 (1) 未知の血清中成分によるGPX4発現制御機構の解析 血清の熱・変性処理や分画の条件検討などの結果を基盤として、次年度では質量分析等を利用し、GPX4発現制御のトリガーとなる(即ちフェロトーシス誘導制御を行う)未知の血清中成分の同定を進める。さらに、GPX4の発現減少の要因として、翻訳停滞や、オートファジーあるいはプロテアソームによる分解が考えられるが、実際のGPX4発現減少の仕組みを分子レベルで明らかにしたい。癌細胞皮下移植や虚血再灌流障害等の関連疾患マウスモデルを利用し、フェロトーシス誘導制御に関わる因子として同定した血清中成分の阻害や欠損時の表現型を解析することで、そのフェロトーシス制御の機能的重要性・意義を検証する。また、特定の疾患リスクと未知血清中成分との関連性やフェロトーシス関連疾患のバイオマーカーとしての利用の可能性を追求する。 (2) キナーゼ分子Xによるリン酸化を介したGPX4活性制御機構の解析 キナーゼ分子XによるGPX4のリン酸化が直接的であることを検証すると共に、その活性化刺激として酸化脂質が内因性の生理的因子であるか明らかにする。また、実際のキナーゼ分子XによるGPX4のリン酸化サイトを同定するために、質量分析等を利用して解析を行う。同定後、リン酸化抗体等を作製し、癌細胞皮下移植や虚血再灌流障害マウスモデル等におけるin vivoレベルでのGPX4リン酸化の挙動変化を解析し、特定の疾患リスクとの関連性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、脂質酸化消去酵素GPX4に対するキナーゼ分子Xによるリン酸化に関して、酸化脂質蓄積に伴ってキナーゼ分子Xが活性化される分子機構の解析を中心に検討したため、質量分析等を利用したGPX4リン酸化部位の網羅的同定については、次年度に集中的に行うこととなった。 また、GPX4の発現が制御される機構としての未知の血清中成分の同定に関しては、今年度は血清成分の熱・変性処理や分画(サイズ・物性等)の条件確定を行い、これらの条件を基に、次年度において、質量分析等を利用することで、GPX4発現増強作用を有し、フェロトーシスを促進する、新たな生理活性分子の同定を血清中成分から進める予定であり、本格的に主眼とする実験を全て行う計画となっている。以上のような状況が、今年度の使用額が少なく、次年度に繰り越した理由である。
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