研究課題/領域番号 |
21K19331
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
国嶋 崇隆 金沢大学, 薬学系, 教授 (10214975)
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研究分担者 |
三代 憲司 金沢大学, 新学術創成研究機構, 准教授 (60776079)
藤田 光 金沢大学, 薬学系, 助教 (40782850)
松本 拓也 金沢大学, 薬学系, 助教 (40800214)
松永 司 金沢大学, 薬学系, 教授 (60192340)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | バイオコンジュゲーション / タンパク質 / 触媒反応 |
研究実績の概要 |
タンパク質の化学修飾は医薬品開発やケミカルバイオロジーなど創薬・生命科学研究において高いニーズがあるが、極性天然アミノ酸に由来する限られた種類の官能基を多数有するタンパク質に対して位置選択的な化学変換を行うことは非常に難しい。本課題では、高度な分子認識能を示すタンパク質間相互作用に着目し、これを利用した高選択的な新規化学修飾法の開発を目的としている。本研究では、標的認識能をもつタンパク質の化学修飾によって触媒サイトを導入した「タンパク質触媒」の合成が鍵となる。このような触媒を合成するには、タンパク質の特定の位置に触媒構造を導入できることと触媒構造導入後も標的認識能が保持されることが重要であるが、これらを達成するための一般的な化学的手法は確立されていない。本年度はそのための基礎的検討として、標的認識能をもつタンパク質の特定の部位に、触媒の代わりに色素を導入するモデル系の確立を行った。その結果、実際に特定の色素をタンパク質に導入することに成功し、さらに、今回開発した手法による化学修飾後も、タンパク質が本来の標的認識能を保持し得ることを見出した。色素の他にアジド基をタンパク質に導入し、クリックケミストリーによりアジドを介して更にタンパク質の化学修飾を行うことにも成功した。以上の知見により、当初計画した手法に基づいて目的とするタンパク質触媒を開発できる可能性が強く示された。 また、タンパク質触媒合成では、触媒構造をタンパク質に導入するための反応剤の開発が必須である。本年度は、求核触媒サイトをタンパク質に導入するのに有用な新規反応剤の開発にも成功し、論文発表、学会発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度はタンパク質触媒合成のための基礎検討として、タンパク質に触媒の代わりに色素を導入するモデル実験を行った。色素導入を行うための反応剤を複数合成し、それらを用いてタンパク質に色素を導入することに成功した。機能化タンパク質の合成では、タンパク質の化学修飾反応、及び反応後のタンパク質の精製の際に、タンパク質の不可逆的な変性が起こる懸念がある。本研究における検討でも、条件によってはタンパク質の変性により、用いたタンパク質本来の標的親和性が失われる現象が観測されたが、反応及び精製条件の最適化により、タンパク質の変性を抑えながら、タンパク質修飾及び精製を行う手法を確立した。また、色素を導入したタンパク質について、タンパク質が本来もつ標的親和性を保持していることを確認し、本研究で開発する手法によって、狙い通りタンパク質本来の機能を保持しつつ新たな機能導入が行えることが分かった。加えて、色素導入と同様の手法によりアジド基をタンパク質へ導入し、続いてシクロオクチン構造をもつ化合物を用いるクリックケミストリーによりアジド基を介して更にタンパク質への機能性官能基導入を行うことにも成功した。 更に、触媒構造を水中でアミノ基に導入できる新規反応剤として、従来共存が困難な求核触媒構造と活性エステル構造を併せ持つ反応剤の開発に成功し、論文及び学会発表を行った。本反応剤は今後タンパク質触媒合成を行っていく上で有用である。 以上より、当初の計画に基づいて着実に研究成果が得られていることから、期待通り順調に進捗していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究は期待通り進展していることから、次年度も当初の方針に沿って進めていく予定である。次年度は今年度開発した手法にもとづき、タンパク質への触媒機能の導入を行う。触媒導入を行うための反応剤の合成はすでに開始しているため、これを完成させ、タンパク質触媒合成を行う。合成した触媒を用いて、タンパク質が認識する分子に対して特異的な化学修飾に取り組む。触媒活性の高さ及び反応の標的特異性を評価し、結果にもとづいて触媒構造の最適化を行う。具体的な検討にあたっては、解析の行い易さから、まずは低分子化合物を認識するタンパク質を用いる触媒から着手する。この進捗に応じて得られた結果にもとづき、タンパク質を認識するタンパク質触媒の開発にも取り組み、タンパク質の基質及び部位特異的なバイオコンジュゲーション法開発へと展開する。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会がオンライン開催になったことにより、旅費が予定より少なくなったことで経費に若干の余裕が出た。一方で、次年度は、今年度の成果に基づいて研究を発展させるにあたって、より大量のタンパク質を用いて検討を行う必要が生じたことから、当初の想定より多くの予算が必要と予測された。そのため、若干額を次年度に使用することとした。
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