研究課題/領域番号 |
21K19333
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
加藤 博章 京都大学, 薬学研究科, 教授 (90204487)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | 構造生物学 / 膜タンパク質 / トランスポーター / リン脂質 / 多剤耐性 |
研究実績の概要 |
本研究では、脂質ナノディスクに挿入した多剤排出トランスポーターが同一化合物に対して異なる薬理学的な挙動を示したことの原因が、リン脂質組成の違いによることを詳細な立体構造解析と薬理学的機能解析によって明らかにするものである。この研究により、膜タンパク質の立体構造とその作用メカニズム対して脂質膜環境が果たしている役割が解明できるものと期待される。 2021年度は、多剤排出トランスポーターのうち、2種類のATP Binding Cassette(ABC)タイプの多剤排出トランスポーターを真菌(酵母)の細胞膜組成のリン脂質とともにナノディスクに再構成することができた。そして、それらのナノディスク中におけるATP加水分解活性を測定した。その結果、輸送基質存在下と非存在下における比活性の違いを詳しく計測することができた。そこで、それらトランスポーターを埋め込んだナノディスクを用いて極低温電子顕微鏡を用いた単粒子(CryoEM)解析を行ったところ、高分解能での構造決定が可能な電顕像を測定することができた。画像中には、多剤排出トランスポーター分子の内向型と外向型状態、両方のコンフォーメーションが見出された。そこで、それぞれの画像について分類を行い、得られた電子顕微鏡密度をもとに、分子構造モデルを作成した。その結果、内向型構造では、輸送基質が結合した状態とアポ状態の立体構造が得られた。一方、外向型構造では、ATPのアナログであるAMP-PNPが結合した状態の立体構造が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでナノディスクに挿入された状態で立体構造解析されたことがない、2種類のABC多剤排出トランスポーターの立体構造をCryoEMを用いて解析することに初めて成功した。特に、真菌症の病原菌Candida albicans由来のABC多剤排出トランスポーターCdr1pについては、これまで立体構造は全く未知であり、その立体構造が決定された意義は大きいと言える。一方、好熱性真核生物Cyanidioschyzon merolae由来のABC多剤排出トランスポーターCmABCB1については、界面活性剤ミセル中に溶解した状態についてX線結晶構造が、すでに我々によって決定されていたことから、界面活性剤中とリン脂質膜中のCmABCB1の立体構造比較が可能となり、今後、両状態での立体構造の違いが明らかになれば、リン脂質と膜タンパク質の相互作用について新たな知見が得られるものと期待される。ナノディスクは、別の生物種の生体膜やオルガネラ膜由来のリン脂質成分を用いても得られており、次年度にそれらの違いから生じるトランスポーター分子の立体構造への影響を明らかにする予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに酵母由来のリン脂質を用いて調製した多剤排出トランスポーターを挿入したナノディスクは、CryoEM解析に適していることが判明し、2種類の異なるトランスポーター分子の立体構造解析が可能になったことから、今後は、同じ輸送基質を用いながら、リン脂質の組成を変更することによって、アゴニスト型、逆アゴニスト型、そして、アンタゴニスト型の作用挙動を示すナノディスク中の当該トランスポーター試料について立体構造解析を実施し、リン脂質組成の異なる膜中におけるトランスポーター分子の構造と作用機能の関係を明らかにする方針である。CryoEMを用いることで、X線結晶解析とは異なる立体構造も得られており、予想を超える成果が得られることが期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、電子顕微鏡を用いた測定と研究成果を学会発表することを目的に計上していた旅費が、コロナ禍による行動制限のために、執行することができなかった。また、コロナ禍による経済活動への影響により、購入を予定していた物品の納期が2021年度中には間に合わず、2022年4月以降に購入を延期せざるを得なかった。さらに、新型コロナウイルス感染抑制への配慮から、アルバイトの雇用も控えることとし、謝金の執行もできなかった。幸いにも、2021年度に予定していた研究計画実施への影響は最小限に抑えることができたため、研究の実行にはほとんど影響が出ず、予定を超える研究成果が得られている。今後は、成果発表と新たに必要となる試薬などの購入に有効活用する予定である。
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