本研究では、脂質ナノディスクに挿入した多剤排出トランスポーターが同一化合物に対して異なる薬理学的な挙動を示したことの原因が、リン脂質組成の違いによることを詳細な立体構造解析と薬理学的機能解析によって明らかにするものである。この研究により、膜タンパク質の立体構造とその作用メカニズム対して脂質膜環境が果たしている役割が解明できるものと期待される。そこで、多剤排出トランスポーターのうち、ABCB1とABCG2のホモログとして2種類のATP Binding Cassette(ABC)タイプの多剤排出トランスポーターを様々な真核生物の細胞膜組成のリン脂質とともにナノディスクに再構成することができた。そして、それらのナノディスク中におけるATP加水分解活性を測定した。その結果、輸送基質存在下と非存在下における比活性の違いを詳しく計測することができた。そして、それらトランスポーターを埋め込んだナノディスクを用いて極低温電子顕微鏡を用いた単粒子(CryoEM)解析を行ったところ、高分解能での構造決定が可能な電顕像を測定することができたことから、その立体構造解析を行った。その結果、それぞれの分子の電子顕微鏡密度を得て、分子構造モデルを作成することに成功した。その結果、輸送基質を結合している状態を明らかにすることができた。また、リン脂質組成の違いに依存して、内向型状態と外向型状態の割合に違いが生じていることが推定された。さらに、ナノディスク状態と界面活性剤に可溶化した状態でのリガンド結合の違いを明らかにすることを目的として、ナノディスク状態でリガンド結合に伴うトリプトファン蛍光強度の消光を利用した実験系を構築した。その方法を用いて両状態におけるリガンド結合の違いを測定した。
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