研究課題/領域番号 |
21K19336
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
堤 康央 大阪大学, 薬学研究科, 教授 (50263306)
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研究分担者 |
淺原 時泰 大阪大学, 薬学研究科, 准教授 (20632318)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | マイクロプラスチック / 安全性研究 |
研究実績の概要 |
国連総会にて採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」にもあるように、海洋環境に広がる1mmよりも小さなマイクロプラスチック 微粒子(MP) の、ヒト健康被害が懸念され、そのリスク評価が喫緊のグローバル課題となっている。MPのヒト健康影響を考えた場合、そのリスクはMPのハザード(固有の生物活性・毒性)と動態(生成過程とその後の体内・細胞内挙動や曝露量、曝露時間)との積算によって決定付けられる。このMPのハザードや動態は、「MPの大きさや表面形状(形、会合)、表面性状(電荷、コート)」といった存在様式(物性)の違いにより多様性に富んでおり、MPのリスクを理解するためには、ハザード・動態と共に、存在様式をも併せて解析せねばならない。しかしながら、MPの存在様式は多岐にわたり、MPの定量的な動態解析手法は未だ標準化できていないうえ、存在様式を把握するための標準品すら無い。 そこで本研究では、申請者らの強みである薬学的「微粒子安全科学研究」での知見を背景に、グローバルな MP 問題への挑戦として、多岐にわたる MP の標準品を獲得し、動態解析手法および存在様式解析手法の確立を目指す。MP は曝される環境や時間に依存して、微少化や鋭利化などの形状変化に加え、酸素原子の添加や構造の開裂などの表面性状変化を示すことから、本年度は、種々条件における MP を獲得し、様々なS-MPデータベースの構築を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では様々な表面性状を有する MP の標準品を獲得し、その調製条件や表面性状データやなどに紐付いたデータベース構築を行い、得られたMPサンプルについて、in vitro・in vivo ADMET解析に向けた基礎検討を行う。 本年度は実験計画に従い、様々なMPサンプル(劣化サンプル)を実験室レベルで作製し、環境サンプルとの比較ののち、MPデータベースを構築し、ADMET解析処理に供するための標準品の準備を行った。 具体的には、ポリエチレン及びポリスチレン微粒子に対して、高出力光処理を行い、継時的にサンプリングすることで、様々な表面性状の MP サンプル(劣化サンプル)の収集を行った。得られたサンプルのIRスペクトルを測定したところ、O原子の導入(酸化)が確認されたことから、表面性状が変化していることが確認された。続いて、実環境(瀬戸内海)の砂浜からMP(環境サンプル)を採取し、IRスペクトル測定による表面性状の確認を行った。環境サンプルは多く場合O原子の導入(酸化)が起こっていることが確認され、研究室で作製した劣化サンプルと共通のスペクトルパターンを示すものも存在した。 以上から、本年度は予定していた様々な表面性状を有する MP データベースを構築を進め、なおかつデータベース上に実環境に存在するMPと同様の表面性状を有するものが存在することも確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、MPデータベースの構築を実施する。さらにデータベースに存在するS-MPサンプルのADMET解析を進める予定である。 ADMET試験として、細胞毒性試験、遺伝毒性試験、がん原性試験、吸収性評価、体内動態評価などを予定している。まずはMTTアッセイ等による細胞毒性を網羅的に行うとともに、マウスへの経口もしくは経肺投与による血液や各臓器への移行性を評価することで体内動態に関する知見を得る。生体内におけるMPの追跡については、表面性状の違いが重要であることから、MPの表面修飾体を用いるのではなく、プラスチック染色試薬を内包させた形での追跡を行う。本研究により、MP 標準モデルの獲得と、各種測定系の構築を行い、曝露実態解析手法の基盤を構築し、MPのリスク評価基盤を提案していく。
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