研究課題/領域番号 |
21K19337
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山下 栄樹 大阪大学, 蛋白質研究所, 准教授 (00294132)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 構造生物 / 相互作用解析 / 薬剤排出タンパク質 |
研究実績の概要 |
世界中では年間約70万人が薬剤耐性菌感染症で亡くなっており、薬剤耐性菌問題を克服することは世界的な重要課題の1つである。菌体における薬剤耐性化に関わっている主な原因の一つに、抗菌剤を菌体外に排出するRND型多剤排出タンパク質複合体の高発現により抗菌剤の増殖抑制を無効にすることが上げられる。RND型多剤排出タンパク質複合体の機能を阻害する分子の戦略的な開発に必要な情報を蓄積することが重要であると考えている。本研究では、巨大な膜タンパク質複合体であるRND型多剤排出タンパク質複合体と様々な基質との相互作用の定量化及び視覚化を目的に、1)各構成タンパク質及び複合体と基 質との相互作用の定量的なデータの蓄積、2)各構成タンパク質及び複合体の基質結合型の高分解能での立体構造情報の取得に取り組む。RND型多剤排出タンパク質複合体の試料として、研究代表者が機能する現場で形成する複合体の構造解析に成功した緑膿菌由来のMexAB-OprM複合体を用いている。 本年度は、昨年度確立したMexAB-OprM複合体の構成タンパク質の一つである内膜タンパク質のトランスポーターMexBの相互作用解析に適した試料調製法を用いて、トランスポーターMexBを準備し、基質との相互作用を様々な手法で定量的に解析することを目的とした。1)トランスポーターMexBの相互作用解析に適した試料調製を行った。その後、トランスポーターMexBと基質との相互作用を調べるために、様々な手法(等温滴定カロリーメトリー法、示差走査熱量測定法、マイクロスケール熱泳動法)を用いて測定した。また、2)トランスポーターMexB及び複合体の基質結合型の立体構造情報の取得に向けて試料調製の検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1) 相互作用解析のためのトランスポーターの試料調製及び相互作用解析 昨年度の等温滴定カロリーメトリー法によるトランスポーターMexBと基質との相互作用実験から、トランスポーターの精製時に使用している界面活性剤が、相互作用実験を困難にしていることが分かった。そこで、アンフィポールに置換した精製標品を準備した。その際、収量を上げるために、精製の工程を見直して、1.5倍の収量改善に成功した。等温滴定カロリーメトリー法で問題となっていたバッファーのミスマッチによる影響を考慮した解析が行え、阻害剤において再現性よくデータが得られた。さらに、示差走査熱量測定法では、トランスポーターの変性温度の測定にも成功し、基質存在下での変性温度の差異を調べるのに十分な質であることが確認できた。また、マイクロスケール熱泳動法を利用した相互作用解析について検討を行った。 2) 立体構造情報の取得に向けた試料調製 基質結合型トランスポーターMexBの構造情報を得るために、基質を含むMexB結晶の調製を行った。結晶化は界面活性剤を含んだ精製標品を用いた。精製毎に界面活性剤の濃度が異なるため、結晶化の最適条件を検討するのに時間を要したが、数種類の基質結合型結晶の回折強度データを収集した。基質結合型MexAB-OprM複合体構造情報を得るために、クライオ電子顕微鏡観察のためのグリッド作製を行い、画像収集を行った。
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今後の研究の推進方策 |
MexAB-OprM複合体と基質との相互作用の定量的なデータを取得するために昨年度に引き続き、1) 各構成タンパク質と基質との相互作用解析、2) 各構成タンパク質及び複合体と基質との結合型の構造解析を実施する予定である。 1) 各構成タンパク質と基質との相互作用解析 各構成タンパク質と基質との相互作用解析では、相互作用解析用の試料調製が困難だと予想されたトランスポーターMexBの調製方法を改善し十分な収量が得られるようになったので、その試料を用いて進める。等温滴定カロリーメトリー法で様々な基質との相互作用時に生じる微量な熱量を定量し解析を進めつつ、示差走査熱量測定法によりトランスポーターの変性温度を基準として間接的に相互作用の有無について調べる。 2) 各構成タンパク質及び複合体と基質との結合型の構造解析 各構成タンパク質の基質結合型の結晶を作製し、X線結晶構造解析を進める。トランスポーターMexBについては、結晶化条件の異なる複数種類の結晶が出ているので、様々な条件での基質結合型の結晶構造解析を進める。クライオ電子顕微鏡単粒子解析法を用いて、複合体の基質結合型の構造解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
相互作用解析に適したトランスポーターMexBの条件はほぼ確立していたが、その条件で精製標品を十分量確保するために精製条件の検討を行った。その際、小容量で検討を行ったので、培養・精製で使用する試薬類の量が少なかったため使用額が少なかった。次年度は、精製用の試薬及び解析用の基質を相当量使用することを想定している。また、膨大な量の相互作用データ及び構造解析データが予想されるので、それらの保存や解析を行うための計算機の補助パーツが必要になると考えている。
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