ナイトレンはオクテット則を満たさない高反応性活性種であり,不活性炭素-水素結合の官能基化に代表される高難易度化学変換に用いられてきた。しかし,その高反応性ゆえに活性種の生成には化学量論量の酸化剤による前駆体の活性化も正当化されてきた。本萌芽研究では,このような目的物以上に活性化剤由来の副生成物を伴う現状を打破するべく,酸化剤フリーのナイトレン生成法の開発を目標としている。 2023年度は前年度までに計算化学により得られた知見を基に,実験化学的な検討を継続した。イミンとナイトレンが異性体である関係に着目し,イミンからナイトレンへの異性化を促進する触媒系の同定を目指した。イミンとしては市販されているベンゾフェノンイミンを用いた。光照射による異性化を経た活性種の生成を期待し,銅およびコバルトに対してビピリジン等の窒素型配位子を用いる触媒系を検討した。電子状態および立体因子をチューニングした配位子を包括的に検討したものの,ほとんどの場合において原料回収に留まった。基質の消失が認められた条件においても,ナイトレン生成を支持する実験結果は得られなかった。これら結果を踏まえ,イミン側のチューニングによる反応促進を志向し,種々の電子吸引性・供与性置換基を導入したベンゾフェノンイミン誘導体を合成した。しかしながらこれら基質を用いても所望の反応は進行しなかった。そこで計算コストの高さから前年度までのin silicoスクリーニングのスコープ外であったロジウム二核錯体を用いた検討に着手した。実験の結果,ロジウム錯体は光照射条件下の安定性にやや問題があるとわかった。しかし外部配位子として吸光団を有する添加剤を錯体に対して1当量加えた際に,ナイトレン生成に起因すると思われる生成物が痕跡量同定された。
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