研究課題
昨年度、Nav1.6-GFPノックインマウスの脳において、GFP蛍光が観察されなかったが、顕微鏡の感度を上げて注意深く観察し直したところ、明確なGFP蛍光シグナルが中枢ニューロンのAISや末梢神経軸索のnode of Ranvierに見出された。次に、Cre-LoxPシステムによる遺伝子組み換えによって、本系統の遺伝子改変マウスにおいてGFP融合タンパク質からtdTomatoの融合タンパク質へと転換できるかどうか確認することを目的に、海馬よりニューロンを培養し、AAVウィルスを用いてCre-recombinaseを強制発現させ、共焦点蛍光顕微鏡を用いてGFPとtdTomatoの両方の蛍光シグナルを観察した。その結果、AAV ウィルスの感染後3日ほどでGFPからtdTomatoへの蛍光シグナルの変化が観察された。すなわち、新旧のNav1.6タンパク質の入れ替えが生じていることが明らかになった。さらに、時間を追って、AISでのGFPおよびtdTomatoの分布を観察したところ、感染後6日で、ほぼAIS全体にわたってtdTomatoのシグナルが広がることが確認された。GFPとtdTomatoの分布(長さ、位置)を比較したところ、tdTomato(新たに合成されたタンパク質)が軸索において長い距離分布しているのに対し、GFP(古いタンパク質)の分布は短い距離であった。さらに、時期を変えて、感染後の長期にわたって蛍光シグナルの変化を観察したところ、感染後18日間でGFPの蛍光シグナルはほぼ見られなくなった。これらの結果から、培養海馬ニューロンでは、Nav1.6は、18日間でほぼ完全に入れ替わり、新たな分子の組み込みはAIS全体で生じるものの、古い分子の消失は軸索の近位―遠位軸に沿って均一でなく、両端もしくは片端に顕著に生じる可能性が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
Nav-GFPおよびNav-tdTomatoの発現と、cre-recombinaseによる組み替えで、蛍光色のconversionが観察され、新旧のタンパク質の入れ替わりを、海馬培養ニューロンの系で確認することに成功した。
視神経の軸索起始部およびランビエ絞輪に局在するNav1.6に着目し、Nav1.6の入れ替わりを観察する。Creリコンビナーゼ遺伝子を持つAAVを眼球内に投与し新旧のNav1.6を区別する(旧:GFP、新:tdTomato)。①入れ替わり時間に週齢差があるかどうか調べる目的で若いマウスと加齢マウス間でNav1.6の入れ替わりの日数を調べる。②神経活動依存的に入れ替わる時間に変化が生じるかどうか調べる目的で、目からの光入力を遮断する、脱髄を誘導する実験を行う。
中枢神経細胞での分子の交替は、脳内の様々な部位で生じており、詳細な解析を進める上で、形態学的な解析を慎重に進め、詳細な解析を行うのに適した領域を特定する必要が生じた。次年度にその部位が特定されることを期待し、次年度に大々的な解析を進める用意のため、次年度使用額を増やすこととした。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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