慢性骨髄性白血病(CML)幹細胞の未分化性維持に関わるドコサヘキサエン酸 (DHA)代謝の下流の標的遺伝子を探索するため,RNAシークエンスにより正常造血幹細胞とCML幹細胞との間での遺伝子発現の比較解析を行った.その結果,標的候補遺伝子としてGpr82を見出した.そこで,Gpr82のノックアウト(KO)マウスより造血幹細胞を純化してCMLのマウスモデルを構築し,生体内でのCML幹細胞の維持におけるGpr82の役割を解析した.その結果,Gpr82 KOマウス由来のCML幹細胞を移植したマウスは,野生型マウス由来のCML幹細胞を移植したマウスと比較して,生存期間が短縮し,細胞数も減少していることが明らかとなった.従って,Gpr82 KOマウス由来のCML幹細胞は未分化性の維持能力が低下しており,白血病発症能が亢進していることが示唆された. さらに,CML幹細胞の未分化性維持機構におけるGpr82の役割を明らかにするため,未分化性維持に関わるmTORC1経路の活性を検討した.野生型・Gpr82 KOマウス由来のCML幹細胞に対して,mTORC1の下流の標的分子であるpS6リボソームタンパク質のリン酸化状態を解析した.その結果,野生型CML幹細胞と比較して,Gpr82 KO CML幹細胞ではpS6のリン酸化状態が亢進していることが明らかとなった.従って,Gpr82はCML幹細胞の細胞周期の休眠状態を制御することで,CML幹細胞の未分化性を維持していることが判明した.すなわち,DHAはリゾホスファチジン酸 (LPA)などのセカンドメッセンジャーの産生を亢進させ,下流のGタンパク質共役受容体Gpr82を介して,mTORC1経路の不活化によりCML幹細胞の未分化性維持に関わることが示唆された.
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