研究課題
申請者らは、特定の疾患・病変における対象遺伝子の発現が、病変の形態学的変化や病気の進行に応じてどのように変化しているのかを病理組織学的観察をもとに評価した上で、遺伝子発現状態の異なる病変部位から選択的に細胞を採取して、ゲノム構造解析のみならず、DNAのメチル化を主体としたエピジェネティクス解析を行うことが疾患における病理形態学的な多様性をもたらす機構の一つの重要な要因と考え、「形態学に即したエピジェネティクス研究」という新たな研究分野を開拓した。これまで、CpG-islandの過メチル化による遺伝子発現抑制について多くの研究を推進し、特定の病変部位から選別した細胞を対象として、エピジェネティク変化が及ぼす形態学的多様性について検討を行ってきた。これらの形態変化に基づくエピジェネティクス研究の過程で、申請者らは、形態や機能単位として選別された細胞集団を、DNAの塩基単位で詳細に検討し、これまで重要視されてこなかった非CpG-island領域のメチル化シトシンおよび非 CpG (CpA, CpT, CpC)のメチル化 (非定型的メチル化)が、腫瘍の発生や進展、さらには細胞分化、組織再生にも重要な役割を有することを見出し、世界に先駆けて報告してきた。当該研究は、上記研究を進めるにあたり、塩基単位での詳細なメチル化状態を検出する方法の開発の必要に迫られ、今後最も研究の必要とされる非定型的なメチル化を、細胞組織構造を保ったまま観察する応用研究へと展開する上で必要欠くべからざる技術開発研究である。現在ICONプローブというメチル化シトシンと結合し、錯体形成するプローブを使い、結合したプローブをその場で増幅させることで、光学顕微鏡で観察可能なレベルに可視化することに成功している。この成果は、Histochemistry and Cell Biologyに2022年に掲載されるに至った。
2: おおむね順調に進展している
本申請課題においては、従来の組織化学では不可能であった、遺伝子発現制御の形態学的解析、特にDNAのメチル化解析を、細胞・組織構造を保ったまま行うことに初めて成功したものである。これは、DNAメチル化を中心としたエピジェネティクス制御機構を形態学的研究へと広く展開させる可能性を持つものである。申請者らは、メチル化シトシンの検出には、メチル化シトシンと相補的な位置のプローブとなるDNAの中のグアニンに標識を行い、メチル化シトシンと特異的かつ強固に結合した標識グアニンプローブを基軸として、padlock probeにより、常温でのDNA増幅法による伸展反応を行い、組織切片上で形態を温存しつつ、DNA伸展中に標式核酸をとりこませるという独創的で斬新な方法の開発に成功しており、基礎的な成果については、国際的学術誌への投稿し、採択されるに至っている。
加齢により付加される定型的CpGメチル化による遺伝子の発現制御と、酸化的ストレスによる老化phenotype(p16INK4a, RANKL増加/ Wnt低下)影響下での非定型的メチル化による再活性化を検討する。申請者等が提唱している遺伝子発現をpin-pointで規定するTATA-box近傍のCpGメチル化が、MeCP2結合を介する多くの遺伝子に共通する新規のエピジェネティクス機構ではないかという作業仮説を骨代謝モデルマウス、腫瘍組織、遺伝子改変動物を用いて検証する応用段階の研究を最終年度として計画している。特に、MeCP2結合配列であるTATA-box近傍のCpG部位を遺伝子編集によりGpG配列に置き換えた改変マウスを、H31年度に筑波大学と共同開発しおり、このpin-pointのメチル化によって、マウス頭蓋冠由来の一次培養骨芽細胞や骨髄組織ex vivo培養細胞でのRANKL発現の推移を評価すとともに、この新たな組織化学の手法による経時的な変化を形態的に追跡研究を行うことを推進し、将来への新たなシーズへと展開できることを目指す。
コロナの影響により、資材の納品に時間がかかり、該当研究の遂行に遅れが生じ、次年度への繰り越しが必要となったため。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件)
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