研究課題
本研究は、血流に起因する内腔圧が血管新生を制御する機構とその生理的・病的な意義の解明を目的に推進している。われわれはこれまで、「創傷治癒における血管新生では、血流に対して下流側の損傷血管が伸長し血管を再生するのに対し、上流側の血管は、血流に起因する内腔圧により伸長しない」ことを明らかにしてきた。また、内腔圧は上流損傷血管を拡張し、血管内皮細胞に伸展刺激を負荷することで、血管伸長を抑えていることを示してきた。今回、内皮細胞に負荷された伸展刺激が血管伸長を抑制する機構について解析を行った。その結果、内腔圧の負荷されていない下流損傷血管では、内皮細胞の先導端膜にTOCAファミリーBARタンパク質(TOCA1・CIP4)が結合すること、さらにBARタンパク質はN-WASP・Arp2/3複合体を動員することでアクチン重合依存的に膜突起を形成し、内皮細胞遊走とそれに伴う血管伸長を促進していることが示された。一方、内腔圧が負荷された上流損傷血管の内皮細胞では、伸展刺激による膜張力の上昇により、TOCAファミリーBARタンパク質が先導端膜に結合できず、アクチン重合とそれに伴う内皮細胞遊走・血管伸長が阻害されることを示した。以上の結果から、TOCAファミリーBARタンパク質は、血管新生における内皮細胞遊走を司る重要なアクチン重合制御因子であると共に、内腔圧センサーとしても機能し、創傷治癒における血管新生を厳密に調節していることが明らかになった。創傷治癒過程の血管新生における内腔圧の新たな役割を解明した本発見は、虚血性疾患に対する効果的な血管再生療法の開発や病的血管新生がかかわる疾患の革新的な治療法開発に貢献することが期待される。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、血流に起因する内腔圧が血管新生を制御する機構とその生理的・病的な意義の解明を目的に推進している。本年度は、内腔圧が創傷治癒における血管新生を制御するメカニズムを分子レベルで詳細に明らかにすることができた。また、血管新生過程の内皮細胞遊走を制御するアクチン重合調節因子として、新たにTOCAファミリーBARタンパク質(TOCA1・CIP4)を同定することに成功した。さらに、これら研究成果を論文にまとめ投稿することができた。以上を総合的に考え、「おおむね順調に進展している」との自己評価にした。
本年度の研究により、内腔圧が創傷治癒における血管新生を制御するメカニズムを詳細に明らかにすることができたので、今後は、その生理的および病的な意義の解明を目指す。具体的には、創傷治癒や組織修復、それに伴う血管新生において、内腔圧による上流損傷血管の伸長阻害がどのような生理的な意義を有するのか解析する。また、腫瘍血管の透過性は高く間質圧も高いため、腫瘍血管新生時に内皮細胞が受ける伸展刺激は低いと予想される。そこで、内腔圧による伸展刺激の低下が、腫瘍血管新生における異常な血管形成の原因か検討する。
コロナウイルス感染症の流行に伴い、購入物品の納入の遅延などがあった。また、研究成果を論文投稿したところ、追加実験を要求されたため、予定していた実験に変えて、リバイスのための実験を優先させた。以上の理由により、本年度使用額が予定より少なくなった。2022年度は、通常の研究活動が可能になるため、精力的に研究を推進するための物品を追加で購入する。
すべて 2022 2021 その他
すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 10件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 4件) 備考 (1件)
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