研究課題
Gタンパク質共役型受容体 (GPCR)の中には、細胞膜上でヘテロマーを形成し、受容体のリガンド親和性やシグナル伝達などの機能変化を引き起こすものがある。病態生理的条件下では、GPCRのヘテロマー化は副作用を抑えた創薬のターゲットとして注目されている。MOR1Dに結合したモルフィネは GRPR-Gq-PLCβという分岐経路を活性化(クロスアクティベーション)して痒みシグナルを伝達する。これまで、GPCRの結合によるクロスアクティベーションなどの機能変化のメカニズムは全く分かっておらず、構造生物学を用いた解析が求められている。しかし、創薬標的であるクラスA-GPCRには構造生物学に適した安定的なヘテロマー形成の例は無く、GPCRヘテロマーの構造解析は世界で誰も成功していない。そこで、本研究ではヘテロマーを安定化する抗体を開発し、GRPR-MOR1Dヘテロマーのクロスアクティベーションの分子機構を構造生物学的に解明することを目指す。独自のタンパク質精製技術と抗体作製技術を用いて、ヘテロマー認識抗体や、各々の受容体に特異的な抗体を人工的につなげたバイスペシフィック抗体などのヘテロマー安定化抗体を作製する。抗体安定化MOR1D-GRPRヘテロマーの構造情報はX線結晶構造解析およびクライオ電子顕微鏡単粒子解析により原子分解能で明らかにする。本申請のヘテロマー安定化抗体取得技術は多くのGPCRヘテロマーの構造解析に応用できるため、ヘテロマー研究を大きく推進することが期待される。令和4年度は、MOR1DとGRPRの発現コンストラクを決定し、クライオ電子顕微鏡を用いた構造解析に取り組んだ。分解能向上を目指してデータ取得・解析した。また、一つの抗体で二つの抗原を認識するバイスペシフィック抗体を作製した。
2: おおむね順調に進展している
一般にヒトGPCRは構造が不安定なため構造解析が困難である。報告者はこれまでGPCRを安定化し結晶化を促進する立体構造認識抗体の作製技術を開発して、多くのヒトGPCRの構造解析に成功してきた。さらに、発現が困難なGPCRにおいても、点変異などを導入した安定化変異体を蛍光ゲルろ過法(FSEC)で高速スクリーニングし、浮遊HEK293発現系により大量生産する技術を開発した。本申請ではこれまで蓄積してきた技術をさらに発展させ、GPCRヘテロマー分子機構解明を目指した構造解析を目指す。1)コンストラクトスクリーニングおよび構造解析昨年度と同様に、GFPタグをつけたMOR1DとGRPRに様々な点変異やBRILなどの安定化タンパク質を導入した。FSECを用いて発現量、単分散性が良好な変異体をスクリーニングし、大量精製している。GRPRは安定化変異体を作製、精製することができた。現在、クライオ電顕を用いた構造解析を試みている。2)ヘテロマー認識抗体作製ヘテロマーをプロテオリポソームに再構成し、免疫不全マウスに免疫した。脾臓B細胞を回収し、ハイブリドーマを作製。ハイブリドーマの中からのヘテロマーのみを認識する抗体を「リポソームELISA法」によりスクリーニングした。構造認識抗体を選別するために、変性した抗原を用いたELISA法で配列認識抗体を除外する。しかし、安定なヘテロマー形成を行わないのか、ヘテロマー認識抗体を取得することが出来なかった。本年度は、MOR1DとGRPRに対する抗体を別々に取得し、一つの抗体で二つの抗原を認識するバイスペシフィック抗体を作製を試みた。現在、抗体の評価を行っている。
ヘテロマー安定化バイスペシフィック抗体を作製する。ターゲットであるヘテロマーが不安定なため、MOR1DとGRPRに対する抗体を別々に取得し、2つの受容体を連結させるバイスペシフィック抗体を作製したい。これにより、ヘテロマーの安定化を行う。GRPRとMOR1D各々の細胞外認識抗体をスクリーニングし、ハイブリドーマからcDNAを合成して可変領域VH、VLの塩基配列を得る。GRPRとMOR1DのVH、VL配列を各々リンカーで1本鎖に結合して、HEK293による分泌系で発現させバイスペシフィック抗体(BiTE)を得る。得られた複数の抗体のコンビネーションから様々な性質を持ったヘテロマー安定化抗体を取得する。抗体安定化MOR1DGRPRヘテロマーの構造情報はX線結晶構造解析およびクライオ電子顕微鏡単粒子解析により原子分解能で明らかにする。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件)
Molecules
巻: 27(15) ページ: 4889
10.3390/molecules27154889.
Cell Rep.
巻: 40(11) ページ: 111323
10.1016/j.celrep.2022.111323.