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2022 年度 実施状況報告書

自然リンパ球による訓練免疫現象に生理的意義はあるのか?

研究課題

研究課題/領域番号 21K19368
研究機関秋田大学

研究代表者

海老原 敬  秋田大学, 医学系研究科, 教授 (20374407)

研究期間 (年度) 2021-07-09 – 2024-03-31
キーワード自然リンパ球 / 訓練免疫 / ILC2 / ILC1 / ILC3 / NK細胞
研究実績の概要

自然リンパ球は、炎症初期にサイトカインを産生することにより免疫の方向性を決める大事な免疫細胞である。主にヘルパーサイトカインを産生する自然リンパ球はそのタイプによりILC1、ILC2、ILC3に分類され、細胞傷害活性を発揮するキラー自然リンパ球はNK細胞である。ILC1は抗ウイルス免疫・抗腫瘍免疫を、ILC2は抗寄生虫免疫・アレルギー炎症を、ILC3は抗細菌免疫を誘導する。自然リンパ球は、一度炎症を経験した後に長期生存し、2次刺激に対して抗原非特異的に炎症を誘導する機能(訓練免疫機能)をもつが、その生理的機能は未だ明らかになっていない。そこで本研究では、①活性化し訓練を受けたILCを追跡する動物モデルを作成し、②活性化ILCのみを除去する動物モデルの作製を目標とする。
本年度は慢性アレルギー炎症により過剰に活性化し、TIGITを発現したILC2(疲弊様ILC2)を追跡した。ILC2は肺に常在しアレルゲンの侵入により活性化しアレルギー炎症を誘導する。ILC2は適切に試験管内培養を行うとセルライン化するため、今まで過剰な活性化で細胞を起こすとは考えられていなかった。しかし、生体内ではアレルギー炎症によって無限に増殖することはない。私達は、1) TIGIT陽性ILC2は、非常に活性化したILC2であり、慢性アレルギーの間、常に誘導されていること、2) 生体内ですぐに細胞死を迎えること、3) ILC2の近くにいるマクロファージ(食細胞)がTIGITのリガンドであるCD155を発現し、TIGIT陽性ILC2に細胞死を誘導すること、4) TIGIT陽性ILC2の細胞死を阻害すると、慢性気道アレルギー炎症が増悪すること、を明らかにした。以上より、過剰に活性化したTIGIT陽性ILC2が生体から除去されることは、過剰な炎症を抑制するための大事な生体防御システムであることが分かった。この細胞死は新しい概念であり、ILC2のActivation-induced cell death: AICD(活性化による細胞死)と名付けた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

本年度は、TIGIT陽性細胞の細胞系譜解析マウスに慢性アレルギー炎症を誘導し、TIGIT陽性ILC2の解析を行った。昨年度開始時点で、TIGITを発現すると生体内で細胞死が誘導することが確認できていた。しかし、どのように細胞死が誘導されるのか分かっていなかった。TIGIT陽性ILC2を、気道にアレルギー炎症がある気管内に投与すると、1時間で細胞死が誘導されたため、TIGIT陽性ILC2の細胞死は急速に起こることが分かった。また、その際、広範囲なヘテロクロマチンが誘導され、ILC2の機能が低下していた。TIGITは抑制性受容体であり、その主なリガンドはCD155である。アレルギー炎症を起こした肺でCD155発現細胞を調べたところ、肺胞マクロファージにおけるCD155の発現が高かった。そこで、肺胞マクロファージとTIGIT陽性ILC2を共培養したところ、CD155依存的にTIGIT陽性ILC2の細胞死が誘導された。さらに、アレルギー炎症を起こしているマウスにクロドロン酸リポソームを気管内投与し、マクロファージを除去したところ、TIGIT陽性ILC2の数が増加した。アレルギー炎症を起こしているマウスの肺で、肺胞マクロファージとTIGIT陽性ILC2の共局在も確認できた。以上より、ILC2は過剰に活性化するとTIGITを発現し、近くにいるマクロファージによって細胞死が誘導されることが示唆された。以上のデータは、Journal of Experimental Medicineに投稿し、2023年3月末の時点でin pressになっている。

今後の研究の推進方策

本年度は、活性化しPD1を発現したILCを追跡する。既に、PD1発現細胞の細胞系譜解析マウス作製のために、PD1-Cre-ERT2マウスを作成し、Rosa26-LSL-tdTomatoマウスと掛け合わせた。パパイン点鼻投与後、完全にアレルギー炎症が収まった2か月後に別のアレルゲン(アスペルギルス抗原)を点鼻することで、ILC2依存性の訓練免疫現象の系は立ち上がっている。まず、アレルギー炎症でPD1陽性となったILC2が、訓練免疫の主体を担うかどうか、検討を行っている最中である。PD1を発現したtrained ILC2を同定できた場合は、trained ILC2を除去できるマウスを作製する。そのために、GATA3-loxp-stop-loxp-Frt-iDTR-GFP-Frtマウスを作製した。GATA3はILC2のマーカーであるが、他のILCにも発現を認める。別に作成したLck-Flpoマウスと掛け合わせることにより、T cellではiDTRが発現しない仕掛けを作った。最終的に、PD1-Cre-ERT2/GATA3-loxp-stop-loxp-Frt-iDTR-GFP-Frt/Lck-Flpoマウスを作製することにより、PD1を発現したILCのみを除去するマウスが完成する予定である。また、KLRG1は、ILC2の成熟マーカーと呼ばれており、バックアップとしてKlrg1-Cre-ERT2マウスも作製した。PD1と同様の実験を行う予定である。

次年度使用額が生じた理由

必要なマウスラインは作製したが、飼育に時間がかかり、実験を行うための数が揃わなかったため。

  • 研究成果

    (15件)

すべて 2023 2022 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 1件、 招待講演 4件) 図書 (1件) 備考 (1件)

  • [国際共同研究] Hannover Medical School(ドイツ)

    • 国名
      ドイツ
    • 外国機関名
      Hannover Medical School
  • [雑誌論文] Quantification of Aspergillus fumigatus antigen Asp f 1 in airway tissue and allergic inflammation2022

    • 著者名/発表者名
      Miyabe Yui、Tomizawa Hiroki、Saito Hidekazu、Yamada Toshiki、Shiina Kazuhiro、Koizumi Koh、Kawasaki Yohei、Suzuki Shinsuke、Fukuchi Mineyo、Ueki Shigeharu、Ebihara Takashi、Yamada Takechiyo
    • 雑誌名

      Allergy

      巻: 77 ページ: 3154~3156

    • DOI

      10.1111/all.15428

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Identification of Galectin-7 as a crucial metastatic enhancer of squamous cell carcinoma associated with immunosuppression2022

    • 著者名/発表者名
      An Jianbo、Nagaki Yushi、Motoyama Satoru、Kuze Yuta、Hoshizaki Midori、Kemuriyama Kohei、Yamaguchi Tomokazu、Ebihara Takashi、Minamiya Yoshihiro、Suzuki Yutaka、Imai Yumiko、Kuba Keiji
    • 雑誌名

      Oncogene

      巻: 41 ページ: 5319~5330

    • DOI

      10.1038/s41388-022-02525-1

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 抗原受容体をもたないリンパ球 NK細胞2022

    • 著者名/発表者名
      海老原敬
    • 雑誌名

      臨床検査

      巻: 66 ページ: 583~587

  • [雑誌論文] 2型自然リンパ球の訓練免疫2022

    • 著者名/発表者名
      海老原敬, 立松恵, 高須賀俊輔, 山田俊樹, 山田武千代
    • 雑誌名

      【COPDと気管支喘息、その周辺疾患-病態・診断・治療の最新動向-】喘息病態up-to-date

      巻: 80 ページ: 586~590

  • [学会発表] Activation-induced cell death of ILC2 regulates chronic allergic inflammation2022

    • 著者名/発表者名
      Toshiki Yamada, Megumi Tatematsu, Shunsuke Takasuga, Kenki Yamagata, Kazuko Shibuya, Akira Shibuya, Takechiyo Yamada, Takashi Ebihara
    • 学会等名
      4TH INTERNATIONAL CONFERENCE ON INNATE LYMPHOID CELLS (ILC4)
    • 国際学会
  • [学会発表] Caloric restriction induces cellular quiescence in hepatic ILC1s2022

    • 著者名/発表者名
      Megumi Tatematsu, Akane Fuchimukai, Tsukasa Nabekura, Akira Shibuya, and Takashi Ebihara
    • 学会等名
      The 51th Annual Meeting of the Japanese Society for Immunology
  • [学会発表] TIGIT mediates activation-induced cell death of ILC2s2022

    • 著者名/発表者名
      Toshiki Yamada, Akane Fuchimukai, Megumi Tatematsu, Shunsuke Takasuga, Hideyuki Yoshida, Kazuko Shibuya, Akira Shibuya, Takashi Ebihara
    • 学会等名
      The 51th Annual Meeting of the Japanese Society for Immunology
  • [学会発表] 自然リンパ球の多様性と運命決定機構2022

    • 著者名/発表者名
      海老原敬
    • 学会等名
      第74回 日本細菌学会東北支部会 学術集会
    • 招待講演
  • [学会発表] 低栄養状態により誘導されるILC1 Quiescence2022

    • 著者名/発表者名
      立松恵、渕向茜、海老原敬
    • 学会等名
      第74回 日本細菌学会東北支部会 学術集会
  • [学会発表] 2型自然リンパ球の多様性とアレルギー疾患2022

    • 著者名/発表者名
      海老原敬
    • 学会等名
      第3回秋田アレルギー疾患フォーラム
    • 招待講演
  • [学会発表] 自然リンパ球の多様性と疾患2022

    • 著者名/発表者名
      海老原敬
    • 学会等名
      第86回秋田県医学会総会
    • 招待講演
  • [学会発表] 自然リンパ球の多様性と小児疾患2022

    • 著者名/発表者名
      海老原敬
    • 学会等名
      第121回日本小児科学会秋田地方会
    • 招待講演
  • [図書] 標準微生物学 第14版 第3版 第30章 ウイルスの病原性2023

    • 著者名/発表者名
      海老原敬
    • 総ページ数
      11
    • 出版者
      医学書院
  • [備考] 微生物学講座所属 山田 俊樹 医員が自然リンパ球の国際学会において、Travel Awardsを受賞

    • URL

      https://www.med.akita-u.ac.jp/topics/20221220.php

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公開日: 2023-12-25  

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