研究課題/領域番号 |
21K19370
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川口 寧 東京大学, 医科学研究所, 教授 (60292984)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | HSV / Ser/Thr選択性 |
研究実績の概要 |
細胞機能の90%以上を制御するプロテインキナーゼ(PK)は、基質の標的アミノ酸をリン酸化修飾する。一般的に、セリン・スレオニンPKのみが2種類のアミノ酸をリン酸化する。標的アミノ酸の選択性(Ser/Thr選択性)に関して、セリン・スレオニンPKは、セリンをリン酸化しやすいセリン選択型PK、スレオニンをリン酸化しやすいスレオニン選択型PK、セリンとスレオニンのリン酸化効率が同程度の非選択型PKに分類されること、本分類はPKの活性中心近傍のアミノ酸側鎖によって、主に規定されることが報告されている。 申請者らは、単純ヘルペスウイルス(HSV)がコードするPKは、特定部位のリン酸化により、Ser/Thr選択性が変化することを見出しており、昨年度、本リン酸化を阻害および恒常的模倣した遺伝子組換えウイルス(HSV PK mutants)の培養細胞系における性状解析を実施した。今年度は、以下の(i)から(iii)を解明した。(i) HSV PK mutantsを脳内接種したマウスの生存率と脳内におけるウイルス増殖を解析し、HSV PK Ser/Thr選択性のHSV神経病原性への影響を解明した。(ii) HSV PK mutantsを角膜接種したマウスの末梢組織における病態発現、各標的組織におけるウイルス増殖とマウスの生存率を解析し、マウスの末梢組織における病態発現と神経侵襲能に対するHSV PK Ser/Thr選択性の影響を解明した。(iii) HSV PK mutantsを角膜接種した6週後のマウスの三叉神経節に潜伏感染しているHSVゲノム・コピー数を解析し、HSV PK Ser/Thr選択性の潜伏感染効率への影響を解明した。一連の解析により、HSV PK Ser/Thr選択性のHSV生活環における生物学的意義が、広く解明されたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、単純ヘルペスウイルス(HSV)がコードするプロテインキナーゼ(PK)におけるSer/Thr選択性の生物学的意義に関して、初年度は、精製酵素を用いた試験管内リン酸化酵素反応系を用いた解析および、部位特異的変異ウイルスを用いた培養細胞レベルでの解析を、2年目である本年度はマウスモデルを用いた初感染時および潜伏感染時の解析を完了したことから、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。一方、本研究はウイルス学研究により見出されたPK Ser/Thr選択性に関する知見を突破口に、宿主PKにおいても、PK Ser/Thr選択機構が保存されていることを示し、一般生物学研究への波及効果も目標としていた。しかしながら、宿主PKの精製が難航していること、解析対象の宿主PKの生理学的な基質が不明であり、適切なPK活性測定系の確立が困難であることから、本目標に関しては現在のところ、継続的な取り組みが必要な状況である。したがって、当初の計画通り以上に進展しているとは言い難いと判断される。
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今後の研究の推進方策 |
単純ヘルペスウイルス(HSV)がコードするプロテインキナーゼ(PK)におけるSer/Thr選択性が、HSVの再活性化に及ぼす生物学的意義は、依然として不明なままである。そこで、作出済みのHSV PKのSer/Thr選択性を規定するリン酸化を阻害および恒常的に模倣した遺伝子組換えウイルス(HSV PK mutants)を、角膜接種した6週後のマウス由来の三叉神経節を摘出し、物理的刺激によるHSV再活性化を上皮系細胞におけるプラーク形成を指標にモニタリングする。本解析により、HSV PK Ser/Thr選択性のHSV再活性化効率への影響が明らかとなることが期待される。また、難航中の宿主PKへの水平展開に関しても、精製法の変更等を試み、引き続き解析を継続する。さらに、宿主PKの先行研究により報告されたSer/Thr選択性を規定するアミノ酸残基に関して、HSV PKにおける意義の解明を試みる。具体的には、HSVゲノム編集法を用いて、該当アミノ酸残基(アラニン)を、他の19種類のアミノ酸に置換した組換えHSVsを作出し、(i) HSV PKのSer/Thr選択性への影響の解析、(ii)HSV PKのSer/Thr選択性以外の基質特異性への影響の解析、(iii) HSV増殖・病態発現機構への影響の解析を実施することで、宿主PKとウイルスPKの共通点と相違点に関して、さらなる知見の解明を試みる。また、補助事業の目的をより精緻に達成するため、追加実験を実施し、成果発表に目掛けて、学会参加、論文投稿を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度、HSV PKのSer/Thr選択性が、HSV PKの多様な機能に及ぼす影響の全体像を解析する予定であった。しかしながら、現状では1回の解析に2ヶ月の時間を必要とするHSV再活性化に対するSer/Thr選択性の影響の解析は、時間的制約のため、十分な再現性実験を実施できなかった。したがって、補助事業の目的をより精緻に達成するため、次年度に追加の動物実験および付随する細胞生物学的な解析を実施する必要がある。そこで、次年度はこの追加実験を遂行するため、実験動物(0.2万円/匹 x 300匹=60万円)、所属機関動物センターのケージサービスによるマウスの維持費(10万円/月 x 4月=40万円)、培地試薬(0.1万円/個 x 200個=20万円)、牛胎児血清牛(3万円/個 x 20個=60万円)、一般試薬(0.5万円/個 x 30個=15万円)、酵素類(1万円/個 x 6個=6万円)、プラスチック器具(0.1万円/個 x 300個=30万円)、キット(3万円/個 x 3個=9万円)、合計約240万円が必要である。
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