「1つのリンパ球は1種類の抗原受容体を発現する。」これは現代免疫学における根幹原理のひとつである。しかし、TCRa遺伝子の対立遺伝子排除は不完全であり、1つのT細胞の表面に2種類のTCRが同時に発現することがある。このような「Dual-TCR T細胞」は、2種類の抗原への交叉反応を示すため、免疫学の原則から逸脱する存在である。しかし生体内のDual-TCR T細胞の検出は容易ではなく、その生理的意義については不明な点が多い。本研究では、Dual-TCR T細胞を検出・単離可能なレポーターマウスを作製し、Dual-TCR T細胞の生理的意義の解明に挑戦する。 ① TCRa遺伝子の定常領域に、2Aペプチドを介して異なるレポーター遺伝子を連結したマウスを作製した。これらのマウス系統どうしを交配し、Dual-TCR T細胞を検出することに成功した。さらに、2種類のTCRaを表面に発現するT細胞を検出するため、このレポーターマウスマウスにさらなるゲノム編集を加え、TCRa定常領域の細胞外部位に異なるエピトープタグを挿入したマウスを作製した。 ② ①で作製したマウスの解析から、末梢T細胞のおよそ20%が両アレルでDual-TCR T細胞であることがわかった。さらに、そのうちの約50%は2種類のTCRaを表面に出す細胞(holoDual-TCR T細胞)であり、残りは片方のTCRaを細胞内にとどめている(hemiDual-TCR T細胞)ことが明らかになった。 ③ Dual-TCR T細胞は、胸腺での正の選択時に生成され、生体内の様々な部位に分布していた。特に、アロ反応を起こしたT細胞や、固形がん組織に侵入したT細胞にはDual-TCR T細胞が多い傾向がみられた。 以上のように、Dual-TCR T細胞の実態を検出できるモデル動物を作製し、生体内の分布や免疫応答における変化を明らかにした。
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