近年、アトピー性皮膚炎に罹患する患者が急増している。アトピー性皮膚炎は、小学生以下の児童・乳幼児の実に10%以上が罹患しており、激しいかゆみによって勉学に支障が生じ、学業成績低下の主な原因となっている。治療としては、全世界的にステロイドの外用剤が用いられているが、副作用への不安から非ステロイド性の治療薬の開発が切望されている.本研究は、アトピー性皮膚炎に対して、世界中で切望されている非ステロイド性の外用薬を提供するための革新的な新規治療基盤を構築することを目的とし、アトピー性皮膚炎として代表的なモデルである薬剤(MC903)誘導性の皮膚炎を対象とし、以下の結果を得た。 1.皮膚のバリアー機能の解析:皮膚からの経皮的な水分の蒸散量(経表皮水分蒸散量)を定量した結果、アトピー性皮膚炎で増加した経表皮水分蒸散量が、KUS121の塗布によって、有意に減少することが確認され、皮膚のバリアー機能が維持されることが確認された。 2.かゆみの抑制効果の解析:昨年度の解析からは、KUS121によるアトピー性皮膚炎の病態の改善は、KUS121による抗炎症作用によるのか、KUS121による掻破行動の低下によるのかが不明であった。そこで、マウスの首にカラーを付け、掻破行動ができない状態で、同様の観察を行った。結果、KUS121の塗布によって、カラーの有無に関わらず、アトピー性皮膚炎の病態の改善が観察されたことから、KUS121によるアトピー性皮膚炎の病態の改善は、KUS121の抗炎症作用によることが明らかになった。 3.KUS121の薬効の分子機構の解析:培養細胞をもちいて、TSLP受容体(TSLP-R とIL-7Rα のヘテロ2 量体)の再構築を行い、さらなるKUS121の作用点を絞り込んだ結果、KUS121の作用点は、TSLPの産生・分泌以降でJAK2のリン酸化までの間であることを見いだした。
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