研究課題/領域番号 |
21K19382
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
伊藤 美菜子 九州大学, 生体防御医学研究所, 准教授 (70793115)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | 制御性T細胞 |
研究実績の概要 |
脳炎症後に脳内に浸潤する脳Tregが脳環境に応じて脳特異的遺伝子発現を獲得するメカニズムを解明することで、脳内炎症性疾患の制御や脳組織修復を促すことを目的とする。 我々はマウス実験的脳虚血 (脳梗塞) モデルを用いて脳損傷後の炎症によって梗塞や神経症状が増悪化することを見出し報告してきた。発症1週間以内の急性期にはマクロファージやγδT細胞を中心とした自然免疫関連炎症が脳内炎症の主役であることを見出した。また発症2週間目以降の慢性期には多量のTregが浸潤しており極めて特殊な様相を示すことを見出した。特にTregが脳特異的な性質を獲得することでミクログリアやアストロサイトの過剰な活性化を制御して神経症状の回復に寄与することを明らかにしている。本研究では脳Tregの発生・誘導機構をin vitro、in vivoにおいて明らかにする。そこで得られた脳Treg誘導関連因子の脳室内投与や欠損マウスにより、脳Treg誘導や脳細胞制御、神経症状への影響を解析する。この研究によって脳梗塞や脊髄損傷、あるいは多発性硬化症の増悪化のTregによる制御方法の理解が進むものと期待される。さらに脳内慢性炎症との関連が示唆されるアルツハイマー病モデルや他の神経疾患モデルを用いて広く脳内炎症におけるTregによるグリア細胞や神経細胞の制御機構およびその中枢神経系疾患への意義を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脳損傷後に脳内に浸潤するTregは組織Tregに共通する遺伝子(ST2やAregなど)に加え、脳Treg特異的遺伝子(HTR7など)を発現する。そこで、この脳Treg特異的遺伝子発現をマーカーとしてFACS解析やリアルタイムPCR解析を行った。脾臓やリンパ節のTregをIL-2やIL-33、セロトニン存在下でアストロサイトと共培養することによって、組織Treg遺伝子であるST2やAreg、HTR7の発現が上昇し、脳Tregのフェノタイプを獲得していることが示唆された。また、トランスウェルを用いた実験では、組織Tregマーカーの発現上昇が認められなかったため、直接的な細胞間相互作用が必要であると考えられた。誘導したin vitro脳TregをRNAseq解析することによって、脳Tregの特徴に近づくことが確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
誘導因子そのものや、誘導因子の発現を高める薬剤を脳内投与することによって脳内炎症性疾患後の組織修復への意義についての検証を行う。一方で、誘導因子を欠損するマウスや阻害剤を用いて脳Tregの誘導が抑制されるかどうかも確認する。脳梗塞だけでなくEAEやアルツハイマーモデルなどでも共通性を検証する。脳梗塞やEAEモデルから単離した脳Tregは病態の違いに関わらずリンパ節Tregよりも脳内に浸潤しやすく、神経症状を改善させることを見出している。in vitroで作製した脳Tregを脳梗塞やEAE、アルツハイマーモデルなどの病態モデルに移入することによって、in vivoでの脳内炎症制御や組織修復促進、神経症状改善効果を検討する
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