研究課題
プロテアソームサブユニットβ1iのアミノ酸置換を引き起こすヘテロ接合性遺伝子バリアント(β1i p.G156D)が、免疫不全と自己炎症を併発する独立した2症例に共通して検出された。このアミノ酸はメダカ、サメからマウス、ヒトに至るまで保存されていること、βサブユニットが会合して形成されるβリングの接合面に位置することから、重要な機能を担うと考えられた。このバリアントを有するマウスを樹立し、その解析を進めている。β1i G156Dヘテロ変異マウスの線維芽細胞においては、β1iの成熟(タンパク質切断)が障害され、プロテアソーム活性は20Sでは低下していたが、26Sではほぼ正常であった。プロテアソームの活性低下に伴って通常ユビキチンの蓄積が認められるが、β1i G156Dヘテロ変異マウス由来の線維芽細胞ではほとんど認められなかった。また、β1i G156Dヘテロ変異マウスは、免疫学的には、T細胞、B細胞、樹状細胞が減少し、血中免疫グロブリンレベルも低下していたが、好中球、単球は脾臓、骨髄において増加していた。さらにβ1i G156Dホモ変異マウスを解析したところ、T細胞、B細胞、樹状細胞はほぼ完全に欠失していた。このようにヘテロ変異マウスよりも重篤な免疫不全が認められたものの、β1i G156Dヘテロ変異マウスの線維芽細胞では、プロテアソームの活性はやはり20Sでのみ低下していて、26Sではほぼ正常であり、ユビキチンの蓄積もほとんど認められなかった。これらのマウスの所見は、症例にも認められることから、β1i p.G156Dが疾患の原因遺伝子バリアントであることが強く示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
プロテアソームサブユニットの新規遺伝子バリアントを導入したマウスの解析を進め、患者のプロテアソーム活性障害、免疫不全病態を再現させることができた。興味深いことに、この病態は、従来の自己炎症性疾患、プロテアソーム関連自己炎症症候群の病態と異なり、プロテアソーム活性障害が軽度であるにもかかわらず免疫不全を呈する点で、プロテアソーム関連自己炎症症候群と似て非なることが明らかになった。この結果から、免疫不全を伴うプロテアソーム関連自己炎症症候群という新たな疾患概念を提唱することができた。また、当初期待したように、単なるプロテアソーム活性低下では説明できない異常が生じていることがわかってきたので、プロテアソームにより制御される新たな免疫制御機構が明らかになることが期待されてきている。
プロテアソームサブユニットの新規遺伝子バリアントを導入したマウスにおいて異常を呈した細胞系列において、どの分化段階でどのような分子基盤の異常が生じているのかさらに解析を進める。B細胞では、数の減少と共に形質細胞への分化における異常が分かってきて、in vivoばかりでなくin vitro実験系でもその異常が再現させることができた。B細胞自身の異常であることが示唆されており、この実験系を基に、遺伝子、タンパク質レベルでの変動の解析を進め、標的となる機能分子群の同定を進める。樹状細胞においても、サブセット解析により分化異常の偏りが明らかになり、in vitro実験系でその異常を再現させることができた。樹状細胞は、造血幹細胞から分化していく過程で、好中球や単球への分化能を順次失いながら最終的に樹状細胞へと運命づけられる。この分化段階の各過程の解析を進め、異常を示す分化段階、機能分子群の同定を進める。一方、好中球、単球は数の上では増加しているが、どのようなサブセット、あるいは分化段階の細胞が増加しているのか組織ごとに比較しながら解析を進めていく。
順調に研究は遂行されており、今までの結果に基づき、研究を進めている状況にある。
すべて 2021 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 4件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件) 備考 (2件)
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