研究課題/領域番号 |
21K19388
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
黒田 玲子 中部大学, 先端研究センター, 特任教授 (90186552)
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研究分担者 |
濱野 真二郎 長崎大学, 熱帯医学研究所, 教授 (70294915)
阿部 真典 中部大学, 先端研究センター, 特任講師 (60599918)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | 住血吸虫症 / ゲノム編集 / 自然免疫機構 / 巻貝 |
研究実績の概要 |
住血吸虫症は、住血吸虫がヒトの皮膚から侵入して起こる感染症で、熱帯地域を中心に世界78か国で2.5億人以上が罹患し、毎年20万人が死亡する。特効薬は親虫にしか効かないうえに耐性が生じてきている。これまでと全く異なるアプローチで感染症を制御することに挑戦している。 住血吸虫が中間宿主の巻貝の中でミラシジウム幼生からスポロシスト幼生2世代を経て、ヒトに感染性を持つセルカリア幼生に変態することが必要なので、巻貝の中での住血吸虫のlife cycleを止めることで制御することを目標とし、ゼロから研究を開始した。マンソン住血吸虫に特異的な中間宿主巻貝Biomphalaria glabrataには、天然にいる感染耐性BS-90 と感染感受性M-lineの実験室系統が確立されており、それらを研究代表者の実験室で継続維持している。 BS-90系統は感染耐性といわれているが、ミラシジウムはM-line と同様にBS-90 系統の巻貝の体内に確実に侵入することを見出した。巻貝体内で変態する過程で、貝の免疫機構により攻撃されると考えられ、その過程の一部を観察することができた。また、感染実験法を確立した。他の感染感受性系統とは異なり、セルカリア泳出時期が遅く始まり長く続くことを見出し、個別飼育法など種々検討し、ほぼ確立できた。 関連遺伝子候補が感染の感受性・耐性形質に関与するかどうかを調べるために、CRISPR/Cas9ゲノム編集技術の確立に挑戦した。一番困難な、世界でまだだれも成功していない、卵外人工胚培養技術開発に挑戦したが、1-2細胞期のステージからの人工胚培養に成功し、成貝まで育てることができた。さらに、最近、自家受精によるF1世代の作成にも、世界で初めて成功した。ノックアウト遺伝子候補を文献から選出し、guide-RNAの設計を試みる段階まで来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
関連遺伝子の有力候補のゲノム編集により遺伝子をノックアウトして、感染の感受性・耐性形質の変化を調べるために、CRISPR/Cas9ゲノム編集技術の確立に挑戦した。一番困難な、胚を卵から取り出して培養する技術開発に挑戦したが、1-2細胞期のステージからの卵外人工胚培養に成功した。予備実験では一番成功しても孵化できる段階までで死亡していたが、大人の貝まで育て、さらに、最近、自家受精によるF1世代の作成にまで成功した。これは、世界でまだだれも成功していないもので、大きな前進である。しかし、成功率がケースによって大きくばらつき、全体としても非常に悪く、その原因究明にまだかなりの研究が必要である。 共同研究先の長崎大学における感染実験の実験手法を確立するに至った。他の感受性系統とは異なり、セルカリア幼生泳出開始が遅く、泳出は長期にわたることを確認、観察期間の選択、そのための個別飼育方法などを確立することができた。COVID-19 禍のために、長崎大学に頻繁にいくことができなかったが、それでも何回か訪問、zoom会議で補足した。
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今後の研究の推進方策 |
卵外人工胚培養の成功率を上げる努力を引き続き行う。最大の課題である。 また、CRISPR/Cas9ゲノム編集のためのマイクロインジェクション実験を開始する。まず、蛍光色素、蛍光タンパク質から始め、文献から着眼した数種の感染耐性候補遺伝子のノックアウトを試みる。 マイクロインジェクションに使うジョイスティックが不具合で2021年度に一式購入させていただいたが、今度は時々不具合が起きていたマイクロインジェクターが完全に故障してしまった。メーカーに修理を依頼したが、22年前に購入したもので修理不可能といわれ、新規購入することになった。幸い、当科研費で購入することができそうで、ありがたい。購入、セットアップ、使い方の習熟と余計に時間がかかることになったが、着実に進める予定である。 候補遺伝子のCRISPR/Cas9によるゲノム編集のためのマイクロインジェクション、卵外人工胚培養を行い、遺伝子がノックアウトされたかを確認する、germ-lineに入りF1世代に引き継がれたものを選択、F2世代を自家受精で作成する。それらの住血吸虫に対する感染実験を長崎大学で行う。遺伝子型を決め、感染感受性あるいは耐性の変化との関係性を調べる予定である。 巻貝内での感染動態解析は長崎大学でしか行えない実験で、新型コロナの感染状況を見ながら現地に出かけて実験を共同で進める。また、共同研究者(分担者ではない)の同意を得て、蛍光標識した住血吸虫を使った感染経路追跡実験を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
ヒト住血吸虫による感染実験は、長崎大学の熱帯医学研究所でしか行うことができないが、新型コロナ禍のために、出張しての実験が大幅に制限されてしまった。このため、感染実験手法の確立にも予想外の状況が発生した。先方が長年継続飼育してきている(正確な入手先はかなり昔のことで不明)感受性貝系統と研究代表者がNIH BRIから入手した感受性系統は同じ名前がついていたにもかかわらず、実は別ものであることが実験をかなり進めてから判明した。したがって、耐性と判断された貝も、のちにセルカリア幼生の泳出が起きることを確認してもらうなど時間を要した。一部の実験をやり直すことになり、この部分では研究計画が遅れてしまったためである。 2022年度は状況が改善することを願うし、そうでなくても、種々の手段を使い、着実に進めていく所存である。
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