研究実績の概要 |
“てんかん”は最も頻度の高い神経疾患の一つであり、根本的な病態の理解と治療法の開発が待たれている。これまで抗てんかん薬は、シナプス伝達や神経細胞の興奮を担うイオンチャネルを主な標的として開発されてきたが、これら薬剤だけでは治療困難な例も多い。研究代表者は、家族性てんかんの原因遺伝子産物である分泌蛋白質LGI1とその受容体であるADAM22が、興奮性シナプス伝達を担うAMPA受容体や細胞興奮性を決定するKvチャネルを制御することを示してきた。また、難治性てんかん患者において、最初のヒトADAM22変異を見出した(Muona, Fukata Y et al, Neurol Genet 2016)。本研究では、新たに見出したADAM22変異の性状解析を通じてADAM22脳症の分子病態を解明し、LGI1-ADAM22経路を標的とする新たな“てんかん治療戦略”の提案を目指す。2021年度は、17ヶ国間のヒト遺伝学者および臨床医との国際共同研究を通じて、ADAM22遺伝子に複合ヘテロ接合型あるいはホモ接合型バリアントを有する小児てんかん性脳症21症例を見出した。いずれの患者も既存の抗てんかん薬では治療が困難な重篤なてんかん症状を示した。私共は、13種の新規ADAM22バリアントについて、(1)成熟、安定性、(2)細胞膜表面への輸送、発現、(3)LGI1結合能、(4)PSD-95結合能という観点で性状解析を行い、すべてのバリアントがいずれかの機能欠失を示すことを明らかにした。すなわち、ADAM22の機能欠損が「てんかん性脳症」の発症の分子病態であることを示した。以上の結果から、“ADAM22てんかん性脳症”という新たな疾患分類を提案した(van der Knoop*, Maroofian*, Fukata* et al. Brain誌 in press; *, equally contributed)。
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