研究実績の概要 |
令和3年度は、マウス大腸がんの病態形成過程において誘導されるがん関連線維芽細胞(CAF, cancer-associated fibroblast)サブセットのうち、Wnt5a依存的に維持されるものとしてtumor-promoting CAF ( tCAF)を同定した。令和4年度は、tCAFが維持される機構について、1細胞RNAシーケンスの結果をもとに軌道解析を行ったところ、tCAFは正常線維芽細胞サブセットの一つであるNormal fibroblast 2 (Norm2)に由来することが判明した。また、Norm2からtCAFへと遷移する過程で、Norm2を規定する要素として同定したPPARシグナルが減弱した。tCAFではTGFβシグナルが活性化していて、PPARシグナルを抑制することにより、tCAFらしさを維持している可能性が示された。さらにWnt5aが欠失すると、tCAFにおいてTGFβシグナルは減弱したことから、Wnt5aがTGFβ/PPARシグナル軸の制御を介して、CAFのアイデンティティー維持に寄与していることが明らかになった。Wnt5a発現線維芽細胞は正常組織では大腸陰窩の底部に限局しているが、がん化の過程で大腸粘膜全層に広がりtCAFと近接しており、空間的な相互作用の強さも示唆された。 一方、がんに至る過程で大腸組織は炎症病態を介するが、Wnt5a発現線維芽細胞の一部は炎症誘導性の線維芽細胞サブタイプinflammatory fibroblast (Inf2)に移行し、TGFβ1を強く発現したことから、tCAF活性化のトリガーはInf2に由来すると考えられた。以上より、炎症から腫瘍に至る病態において、Wnt5a発現線維芽細胞を中心とした線維芽細胞集団の時空間的リモデリングの制御機構を明らかにできたと考える。
|