申請者は未分化性の高い腫瘍がフェロトーシス誘導療法の適切な対象疾患と考え、未分化性を決定するバイオマーカーの同定を目的に研究を進めてきた。その結果、SMARCA4変異がん細胞ではフェロトーシス感受性が高い一方、アポトーシスに対しては耐性を示すという興味深い結果を得ている。そこで、アポトーシスとフェロトーシス誘導に関わる分子メカニズムについて明らかにするとともに、SMARCA4変異がん細胞のフェロトーシス脆弱性を標的とした新規治療法の開発を目的とし、当該年度は次の二つについて研究を行った。1. SMARCA4 のクロマチンリモデリング機能によって制御される分子の同定:SMARCA4変異により発現制御される分子を網羅的に同定し、絞り込みを行うことを目的とし、SMARCA4変異(欠失)を有する非小細胞肺癌細胞を用いてSMARCA4を安定発現させた細胞を作成した。また、この細胞を用いて、Transposonによる網羅的オープンクロマチン領域解析(ATAC-Seq)を行った。現在データの解析を実施している。次年度に実施予定であるRNA-seq解析と併せて、SMARCA4 のクロマチンリモデリング機能によって制御される分子の同定を行う。2.細胞死調節因子の同定:フェロトーシス感受性が高い小細胞肺癌を用いた解析からCASP8遺伝子(Caspase8)が欠失あるいは発現低下していることが明らかとなった。そのため、Caspase8の発現がフェロトーシス感受性に影響するかについて検討した。その結果、Caspase8はNRF2を介した抗酸化シグナルを促進するp62/SQSTM1の発現を負に制御しており、発現レベルがフェロトーシスの感受性に影響を与える分子の一つであることが分かった。そのため、小細胞肺癌をはじめとするCASP8が欠失している神経内分泌系腫瘍ではフェロトーシス抵抗性が亢進していることが明らかとなった。
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