研究課題
慢性炎症は大腸がん形成を促進することが知られている。大腸炎関連がん形成においては、散発性大腸がん形成とは異なる遺伝子に変異が入り悪性化する場合がある。慢性炎症が、がん形成をどのように促進するかの分子機序を明らかにすることを本研究の目的とし、項目1ではSBトランスポゾンシステムを用いて、新たに炎症関連がんマウスモデルを複数種樹立し、生体内で炎症関連がん遺伝子群を網羅的にスクリーニングする。さらに得られた候補遺伝子の機能検証や機能解析を行う。項目2では臨床検体を用いた検証実験を行い、マウスを用いたスクリーニングにより得られた知見を検証する。1.SB挿入変異誘発法による炎症関連がんのマウス生体内スクリーニング本年度は、マウス消化管に炎症を起こすための方法を、PolyIC(二本鎖RNA)の腹腔内投与、高脂肪食給餌等の3種類検討した。病理組織標本を作成して炎症がどの程度引き起こされているかを観察し、決定した条件を用いて炎症関連がんのモデルマウス作成に着手した。一部のマウスから消化器腫瘍の採取も始めている。2. ヒト潰瘍性大腸炎関連大腸がん由来のオルガノイドを用いたオミクス解析臨床検体から大腸上皮や大腸腫瘍を得てオルガノイドを樹立するための条件検討を行い、ヒト潰瘍性大腸炎関連がん由来オルガノイドを樹立するための実験条件を整えた。この条件を用いて、臨床検体由来のオルガノイドを得てRNAやDNAを抽出し始めている。
2: おおむね順調に進展している
1.SB挿入変異誘発法による炎症関連がんのマウス生体内スクリーニング炎症を起こすために、これまではデキストラン硫酸塩(DSS)の経口投与を行ってきたが、本研究では新にPolyIC(二本鎖RNA)の腹腔内投与、高脂肪食給餌を試し、合計3条件を比較した。病理組織標本を作成し、炎症反応が惹起されているか、腫瘍形成が促進されるかについて評価した。その結果、DSS投与を3回行うことで慢性的な大腸炎が誘導され、腫瘍形成が促進される結果を得た。また、PolyICをSBマウスに週1回、6週間にわたって投与すると、マクロファージの慢性的な活性化が引き起こされ、その結果消化管の腫瘍形成が促進される傾向があることも示された。高脂肪食を与えた場合も、消化管に炎症反応とみられる所見が観察された。各条件においてそれぞれ利点があるため、これら3つの条件を使用し炎症関連がんのモデルマウスを作成し解析を進めている。2. ヒト潰瘍性大腸炎関連大腸がん由来のオルガノイドを用いたオミクス解析手術検体からオルガノイドを樹立するための条件を検討し、当研究室での手法を確立した。非腫瘍部と腫瘍部で培地の種類を変えるなどの検討も行い、より効率よく培養できるようにした。
1.SB挿入変異誘発法による炎症関連がんのマウス生体内スクリーニング炎症関連がんのマウスモデルの匹数を増やし、解析を行うのに十分な消化管腫瘍を得る。慢性炎症を引き起こすと、より悪性度の高い転移がんも低頻度ながら得られているので、転移腫瘍も採取する。採取した腫瘍よりゲノムを抽出し、これまでのプロトコルに従ってトランスポゾン挿入部位を同定することで候補遺伝子群を得る。2. ヒト潰瘍性大腸炎関連がん由来のオルガノイドを用いたオミクス解析潰瘍性大腸炎関連がんと散発性大腸がん由来オルガノイドから得たRNAやDNAを用いて、網羅的発現解析や変異解析、メチル化解析を行い、SBを用いた生体内スクリーニングで得られた候補遺伝子群と比較する。これにより、ヒトとマウスで共通して不活性化を受けている遺伝子を抽出する。
研究は概ね計画通りに進んでおり、消耗品の購入や受託費の支出もほぼ順調に行っている。昨年度は計画していた額よりも支出が少々少なく次年度に繰り越されるが、次年度により多くの受託解析を計画しているため、計画に沿って研究を進められると考えている。
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Journal of Pathology
巻: 257 ページ: 39-52
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Frontiers in genetics
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