研究課題
炎症微小環境で大腸がん形成が促進する分子機序を明らかにすることを本研究の目的とし、項目1ではSB挿入変異誘発法による大腸炎関連がんのマウス生体内スクリーニング、項目2ではヒト潰瘍性大腸炎関連大腸がん由来のオルガノイドを用いたオミクス解析を行う。項目1:消化管上皮細胞特異的にSBトランスポゾン挿入変異を引き起こすマウス(SBマウス)を交配により作成し、DSS投与、またはPolyIC投与を行うことで消化管に炎症を引き起こした。高脂肪食投与が与える影響の検討も行なった。DSS投与によりマウスの寿命が縮まり、より悪性度の高い腫瘍が高頻度に形成された。PolyIC投与では、寿命や腫瘍数に変化が見られない傾向があった。高脂肪食投与マウスでは、寿命が短くなる傾向があった。DSSとpolyIC投与マウスは、炎症関連大腸がん悪性化モデルとして有用と考えられるが、DSSが大腸特異的に再現性良く炎症を引き起こすことができ、モデルとして最適と考えられた。項目2: 臨床検体から大腸上皮や大腸腫瘍を得てオルガノイドを樹立するための条件検討を行い、ヒト潰瘍性大腸炎関連がん由来オルガノイドを樹立するための実験条件を整えた。
2: おおむね順調に進展している
項目1:DSSの経口投与を3回繰り返すことで2ヶ月にわたり慢性的な大腸炎を誘導できること、PolyIC投与で消化管内外に炎症を引き起こせることを確認した。次に、消化管上皮細胞特異的にSBトランスポゾン挿入変異を誘発するマウス(SBマウス)を作成し、DSS投与、PolyIC投与、高脂肪食給餌を行なった。SBマウスは、トランスポゾン転移酵素(lsl-SB11)、変異原性を持つトランスポゾン(T2/Onc2)、消化管上皮特異的誘導型Cre(Villin-CreERT2)に加え、活性化型点変異Kras(lsl-KrasG12D)とTGFb2型受容体変異(Tgfbr2flox)を両方、またはlsl-KrasG12Dのみ持つ複合変異マウスを交配により作成した。これらをKT-SBマウス、K-SBマウスとした。DSS投与したK-SBマウス(n=14)、KT-SBマウス(n=13)は、投与しない対照群であるK-SBマウス(n=8)、KT-SBマウス(n=8)と比べて約13週寿命が短縮した。大腸腫瘍数を比較すると、直径5 mm以上の腫瘍数がDSS投与により増加した。病理組織学的解析により、DSS投与により悪性度の高い腫瘍の頻度が有意に増加することも示された。一方、polyIC投与によりK-SB, KT-SBマウスの寿命に変化はみられていないが、解析マウス数が少ないので今後十分な数を揃えて解析を続ける予定である。高脂肪食給餌マウスに関しては、K-SB, KT-SBマウス共に、対照マウスと比べて1ヶ月ほど寿命が短くなる結果を得ている。項目2:がん組織からオルガノイドを樹立する際に効率を下げる主な要因として、線維芽細胞の混入、バクテリアの混入、生細胞の割合の低下が考えられたため、樹立に使うメディウムや手法を見直し、効率を高める検討を行なった。
項目1:PolyIC投与や高脂肪食給餌SBマウスの匹数を増やし、解析を行うのに十分な数を準備し、マウスを用いた解析を完了させる。採取した腫瘍よりゲノムを抽出し、これまでのプロトコルに従ってトランスポゾン挿入部位のクローニング、次世代シーケンス解析、情報解析を行うことで候補遺伝子群を得る。炎症の有無や高脂肪食給餌の有無で変異遺伝子の種類や頻度に差が出るかに特に着目して解析を行う。項目2: 大腸がん由来オルガノイドからRNAやDNAを用いて、網羅的発現解析や変異解析、メチル化解析を行い、SBを用いた生体内スクリーニングで得られた候補遺伝子群と比較する。これにより、ヒトとマウスで共通して不活性化を受けている遺伝子を抽出する。
研究は概ね計画通りに進んでおり、消耗品の購入や受託費の支出もほぼ順調に行っている。昨年度は計画していた額よりも支出が少なく次年度に繰り越されるが、今後は規模を広げた解析を計画しているため、計画に沿って支出が行えると考えている。
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J Pathol.
巻: 257 (1) ページ: 39-52
10.1002/path.5868.