本研究では,損傷をなるべく与えずに神経活動を長期に安定して計測することが困難であるという脳活動計測技術における重要な課題を解決するために,有機エレクトロニクスを用いたソフトアクチュエータ技術と微細加工を用いたMEMS技術を統合し,柔らかいまま電極自身の蠕動運動によって脳組織に潜り込んでいくことができる全く新しいタイプの多点神経電極の開発を目指した研究を行った. 昨年度は,主に生理学実験の基礎データの収集とソフトアクチュエータの材料選定および駆動特性評価実験等を実施したため,最終年度では,これまでに得られた基礎データをベースとして,蠕動運動により脳組織に潜り込むことができるデバイスの開発とその機能評価のための生理学実験を実施した. CNTを電極部に用いたソフトアクチュエータを設計・試作し,様々なパターンで電圧駆動したところ,アクチュエータ先端部において最大5 mm程度の変位(運動)を引き起こすことに成功した.また,複数の電極パターンに位相の異なる電圧を印可したところ,蠕動運動に類似の運動を生成することができた.そこで,当デバイスの先端を針状に尖らせ,麻酔下のラットを用いた生理実験により,聴覚皮質の表面から蠕動運動により刺入できるかどうか試みた.しかしながら,様々な電圧印可パラメータを探索したにも関わらず,電極自身の蠕動運動により脳組織に潜り込む状況を作り出すことは出来なかった. 本研究により,電極自身の蠕動運動により脳組織に潜り込むことができる多点神経電極は実現できなかったが,CNTを用いてソフトアクチュエータにより電圧印可による蠕動運動様の運動を実現出来た等,今後の新規神経電極開発に繋がる知見を蓄積できたことは収穫であった.
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