様々な情報を学習・記憶する際、特定脳領域において一群の神経細胞集団(セルアセンブリ)が活動する。さらに、これらの神経細胞集団は睡眠時にも活動し、睡眠時の神経活動の重要性が示唆されている。 我々は繰り返し連合学習課題を用いて、①学習を重ねるごとに連合が促進し、記憶が強化する(記憶の質的遷移が誘導される)こと、②この強化は学習後の断眠により抑制されることを発見している。しかしながら、どの脳領域が、どのような神経活動変化を伴い記憶の質的遷移を誘導するのかは不明である。このような背景のもと、我々は「繰り返し連合学習課題において、睡眠時に特定脳領域で、記憶を保持している神経細胞集団が再活動し領域内変化や領域間相互作用が誘導されることで、連合が促進し記憶が強化される」と仮説を立てた。 この仮説を検証するため、我々はまず繰り返し学習後に様々な脳領域の活動をそれぞれ抑制し、その後の記憶を評価することで、連合記憶の質的遷移を制御する脳領域を検索した。その結果、複数の脳領域の活動抑制が学習能力の低下を誘導したことから繰り返し連合学習は単領域ではなく、複数の領域が関与すること、さらに各脳領域がそれぞれ必要とされるタイミングが異なることを発見した。 次にこれら複数の脳領域より学習時に活動した神経細胞集団の睡眠時における活動を捉え、それらの領域内及び領域間の活動変化を人為的に操作するため、①脳波(EEG)や筋電(EMG)を基に覚醒/睡眠状態を判別する「睡眠判定装置」、②カルシウムイメージング可能な「蛍光内視鏡」、③特定のパターンで光照射でき、光感受性タンパク質と組み合わせることで単細胞レベルの活動操作を可能にする「光刺激装置」を組み合わせたシステムを構築した。そして、この新規システムを用いて、多脳領域より特定神経細胞集団の活動をリアルタイムで計測し、同時に、それらの活動を操作することに成功した。
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