研究課題
神経難病であり、中枢神経の自己免疫疾患の一つである視神経脊髄炎の病因は血清中の抗アクアポリン4抗体であることが判明している。今回、我々はアクアポリン4の細胞外領域とIgG1-Fc領域をドッキングさせたアクアポリン4細胞外領域-IgG1Fc融合タンパクを作製し、それにより、患者血中にある抗アクアポリン4抗体を中和し、抗アクアポリン4抗体産生B細胞に対する抗体介在性細胞障害をきたす作用により、治療応用をめざしている。その手始めとして今回アクアポリン4細胞外領域-IgG1Fc融合タンパクの作製に利用する、アクアポリン4の細胞外領域であるLoop A,C,Eのアミノ酸配列をデータベースおよび過去の文献から同定しそれぞれ、GGTEKPLPVDM、VGGLGVTMVHGN、NWENHとすることにした。さらにそれにリンカー配列をつけIgG1Fcにつなげ、遺伝子配列に戻した。最終的にこの遺伝子よりタンパクを生成し実験に用いることが目標になるが、さらにその前段階としてまずその遺伝子配列の遺伝子を人工的に合成した。その遺伝子をpIRES2-AcGFP1ベクターに挿入した。pIRES2-AcGFP1ベクターを用いたのは目的遺伝子と同時に蛍光タンパクを発現させることができるように設計されており、フローサイトメトリーで使用する際にベクターが確かにヒト細胞(今回用いるのはHEK293細胞)に遺伝子導入されたことをその蛍光を検知することにより可能となるからである。こうして、アクアポリン4細胞外領域-IgG1Fc融合タンパクをHEK293に発現させ、血清抗アクアポリン4抗体陽性患者血清との反応をフローサイトメトリーを用いて解析する準備が整った。
3: やや遅れている
細胞外領域に関して論文により記載が異なり、その確認及び、アミノ酸配列の決定に想定以上に時間を要した。また、リンカータンパクを挿入するかどうかなどに関しても情報を収集し挿入決定までに時間を要した。さらに、人工的な遺伝子合成、さらにはベクターへの合成された遺伝子の挿入にも時間を要したため。
上記のようにアクアポリン4細胞外領域-IgG1Fc融合タンパクをHEK293に発現させ、血清抗アクアポリン4抗体陽性患者血清との反応をフローサイトメトリーを用いて解析する準備が整ったため、まず血清抗アクアポリン4抗体陽性患者の血清サンプルの収集に取り組む。ついで、アクアポリン4細胞外領域-IgG1Fc融合タンパクを発現させたHEK293と患者血清を反応させ、蛍光標識した抗ヒトIgG抗体を反応させることにより、患者血清中抗アクアポリン4抗体がどの程度細胞外領域に反応するかを調べる。さらに市販のポリクローナルな抗アクアポリン抗体を反応させ、その反応が用量依存的に起きるのかなど基礎検討を加える。その上でアクアポリン4細胞外領域-IgG1Fc融合タンパクの合成、視神経脊髄炎の動物モデルの作製に取り組み、できたタンパクをモデル動物に投与し、有効性と安全性を評価し、治療応用をめざす予定である。
COVID-19感染もあり、研究が予定より遅れたこと、また、想定より安くAQP4の細胞外ドメイン(AQP4loopX)とIgG1 Fc領域を結合したAQP4loopX-Fcの遺伝子配列をpIRES2-AcGFP1に挿入したものが作製できたため次年度使用額が生じた。今後、計画通り、ヒト抗AQP4抗体とhAQP4 M1ないしM23の結合をAQP4loopX-Fcが用量依存的に阻害するか、どうかを確認する。さらに視神経脊髄炎の動物モデルを作製し、さらにそれへAQP4loopX-Fcを投与し、in vivoで抗AQP4抗体が中和されるか、抗体産生B細胞に影響を及ぼすか、臨床的な改善があるかなどを検討する予定である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件)
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