悪性固形腫瘍内の酸素環境は不均一で、腫瘍血管からおよそ70~100ミクロン離れた領域に、血管から十分な酸素が供給されない低酸素領域が存在する。低酸素刺激にさらされたがん細胞は悪性形質と治療抵抗性を獲得し、がん患者の予後不良やがんの再発の原因となる。従って、がん患者に対する個別化医療を実現させるためには、患者ごとに異なる腫瘍低酸素領域の量を簡便かつ正確にモニターする手法の確立が急務である。この様な背景の下で我々は、低酸素がん細胞が発現・分泌する蛋白質を見出せば、その血中濃度を指標に腫瘍性酸素画分をモニターできると考えた。低酸素刺激を受けたがん細胞が発現・分泌する蛋白質をスクリーニングした結果、これまでに我々が見出していたSPINK1蛋白質を含む4つのタンパク質が同定された。これら4遺伝子の発現を総合的にモニターし、これら4遺伝子のいずれもが高発現している症例を選別することによって、高精度に腫瘍低酸素画分をモニターできる可能性を確認した。昨今、腫瘍低酸素を標的とする治療法の確立が進められている中、本研究で見出した4遺伝子によって低酸素領域を多分に含むがん患者に対する個別化医療を実現する足掛かりを得ることが出来た。
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