日本の出産における早産児の割合は約6%、低出生体重児は約10%も占める。早産児・低出生体重児では、グリア細胞数の減少や白質容量の低下、神経の髄鞘化が遅れる傾向にあり、将来的に発達障害の発症リスクが高い。現在は、栄養学的観点からのケアが中心だが、分子機構を根拠にした処置が加われば、予後の大きな改善が期待できる。本研究では、早産児、低出生体重児の脳発達の予後改善を目指し、霊長類の脳発生研究の基盤創出と分子レベルの理解に取り組む。
1)早産が起こる時期に相当する時期の正常脳発生過程を理解するために、カニクイザル妊娠中期・後期の脳の組織学的解析を行い、霊長類の脳研究の基礎を構築する事に努めた。種々の細胞マーカーで解析とMRI撮影(DWI画像、DTI画像)により、白質や神経髄鞘化の発達過程の全体像立体Mapの作製を行った。また、比較のため、マウス、コモンマーモセット、モルモット胚の脳についても作製した。 2)妊娠中期・後期にはグリア細胞が増大し白質が発達する。そこで、グリア細胞増産に関与する因子の探索を目的に、カニクイザル胚の脳を用いて、slide RNA-seq解析及び1細胞RNA-seq解析を行った。その結果、複数の候補因子を見つけた。そのうちの1つは機能解析まで行い、グリア細胞の増大に寄与できることを示した。また、velocity解析から、白質を形成するグリア細胞の細胞系譜・移動経路を推定できるデータを得られた。 3)早産児においては早々に母体から離れるため、母体または胎盤由来因子に曝される期間が、正期出産児と比較して短い。脳発生に必要な母体または胎盤由来因子を同定できれば、予後改善に貢献できる。そのために、ヒト早産児及び正期出生児の羊水、脳脊髄液を収集するための研究体制を整え、収集を開始している。
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