次世代遺伝子編集システムによるFCMDに対するスプライシングスイッチ療法の確立 研究の目的:福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD)は本邦特有の胎児期発症の神経・筋疾患であり治療法がない。全患者がスプライシング異常を惹起するトランスポゾン配列の挿入変異を有し、責任遺伝子フクチンの最終エクソン内の潜在的供与部位と、挿入変異内の潜在的受容部位の活性化による異常スプライシングが原因である。ゲノム編集技術は遺伝子治療の概念を覆す画期的新技術として着目されるが、DNA二本鎖切断のオフターゲット作用による転座や破壊が懸念され、in vivoでのゲノム編集には未だ課題が多い。近年base editor で遺伝子を切断せず標的遺伝子に結合できるシステムが開発された。そこで、本研究は次世代遺伝子編集システムを駆使し、傷跡を残さずにスプライシング異常を治療する治療基盤の確立と、症状の回復を独自に開発した大脳三次元疾患モデルを用いて証明する。現時点ではdCAS9システムを用いたスプライシング治療法の報告はない。この方法の応用は多数のスプライシング異常症への展開の可能性があり、挑戦的研究としての意義が大きい。 本年度はCRISPRシステムを用いないでスプライシングを引き起こす遺伝子変異にサイレント変異を誘導しエクソントラップを阻害する実験を行った。このスプライシングスイッチは従来のdouble strand break ではなく、片鎖塩基の修復を用いているため、オフターゲット効果が低く、特異性も高い。本年度はHEK細胞でまず、正常細胞で標的遺伝子のスプライシング誘発配列のサイレント変異の誘導を検討した。エレクトロポレーション法で変異を誘導したところ、変異率はかなり低いものの、統計学的に優位な変異同定が確認できた。
|