研究課題/領域番号 |
21K19460
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研究機関 | 兵庫医科大学 |
研究代表者 |
古賀 浩平 兵庫医科大学, 医学部, 准教授 (50768455)
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研究分担者 |
矢尾 育子 関西学院大学, 生命環境学部, 教授 (60399681)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 慢性疼痛 / 不安 / 前帯状回 / シナプス可塑性 |
研究実績の概要 |
精神疾患は、持続的な感覚入力や様々なストレスが原因となりシナプス伝達や神経回路に異常を示し、負の情動を形成した結果生じる。特に、慢性疼痛が惹起する不安やうつなどの負の情動は、精神疾患の代表的なものである。しかしながら、慢性疼痛が引き起こす不安やうつなどの負の情動を形成するシナプス可塑性の投射選択性、分子機構および標的因子は不明である。 本研究では、痛みと情動を司る脳領域である前帯状回に着目し、前帯状回に投射するどの脳領域からの興奮性シナプスが慢性疼痛モデルマウスでシナプス可塑性を示すかについて、光遺伝学を用いた投射選択性と電気生理学的手法を組み合わせて解析した。視床と扁桃体は、慢性疼痛の身体的要因と心因的要因の両要因に関わる脳領域である。また、これらの領域は、前帯状回に投射してシナプスを形成していることが解剖学的に明らかになっている。従って、光感受性チャネルであるChR2を組み込んだアデノ随伴ウイルスをマウスの標的部位に局所投与して感染3-4週間後に脳スライス標本を作製した。そして、感染確認後に前帯状回の錐体細胞からホールセルパッチクランプ記録を行いChR2を活性化させる青色光を照射して投射選択的なシナプス伝達を解析した。 さらに、慢性疼痛モデルマウスの前帯状回で変動する新規の標的因子について、網羅的に解析するためにマイクロアレイ法を用いて探索した。慢性疼痛モデルを作製した1-2日後において、MAPKのサブファミリーの上流に存在する候補因子が同定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電気生理学的手法を用いたシナプス伝達およびシナプス可塑性の解析は、既に立ち上がっている。本研究計画において、前帯状回に投射する脳領域からのシナプス可塑性を解析するために必要な光遺伝学的手法を本年度内に確立できた。特に、標的となる脳領域の座標、投与するアデノ随伴ウイルスの種類と量の条件検討もでき、安定した記録が行えている。そして、正常マウスのシナプス伝達と慢性疼痛モデルマウスで形成されるシナプス可塑性も解析が進んでいる。 また、慢性疼痛モデルマウスの前帯状回で変動する新規の標的因子について、網羅的に解析できるマイクロアレイ法を適用した。その結果、興味深いことに、慢性疼痛モデルを作製した1-2日後において、MAPKのサブファミリーの上流に存在する候補因子が同定された。この候補因子はシナプス可塑性を誘導・維持する可能性がこれまでの先行研究から示唆されている。今後は、シナプス可塑性と標的因子の役割について調べていく。 本年度は、光遺伝学を用いた疼痛関連行動(von Frey test、熱刺激、条件付け場所嫌悪行動、高架式十字迷路)を立ち上げる予定であったが、光刺激を行うファイバーを留置するための手術の立ち上げができていない。したがって、来年度は光遺伝学と行動学を組み合わせた解析を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
前帯状回に選択的に投射する脳領域からのシナプス可塑性の解析をさらに進めていく。特に、慢性疼痛モデルの初期および後期においての時期特異的なシナプス可塑性を明らかにする。また、視床と扁桃体以外の疼痛関連脳領域から前帯状回へのシナプス伝達が慢性疼痛モデルのシナプスで可塑的な変化を示すかについてもさらに調べていく。 慢性疼痛モデルマウス初期の前帯状回において、マイクロアレイ法により明らかになった候補因子はmRNAレベルでの変動である。したがって、まずはこの候補因子がタンパク質のレベルで変化するかを調べる。そして、どのような機能的意義を有するかを明らかにしていく。この候補因子の抗体は購入が可能であるため、ウエスタンブロット法でタンパクレベルでの変動を調べる予定である。 光遺伝学を用いて疼痛関連行動の解析を行うための手術機器や行動を解析する機器はおおむね揃っている。今後、光ファイバーを挿入する手術を行う。そして、前帯状回においてシナプス可塑性を示す選択的な投射を光遺伝学で操作した時に疼痛関連行動が変化するかについて調べていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度末にマウスを購入し、予算を使い切る予定であったが実験計画が変更になったために次年度に持ち越した。 持ち越した額は、次年度、実験を行うためのマウスや試薬の購入費にあてる。
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