不安やうつなど精神疾患は、痛み刺激などの持続的な入力や身体的および心因的なストレスが原因であと考えられる。痛みの持続的な入力や様々なストレス負荷が、中枢神経系におけるシナプス伝達や神経回路に異常を示し、その結果、負の情動を形成すると考えられる。持続痛が引き起こす不安やうつなどの負の情動は、精神疾患の代表な症状である。しかしながら、この慢性疼痛による不安やうつなどの負の情動を形成するシナプス可塑性、特に投射選択的な可塑性、シナプス可塑性を引き起こす分子機構および標的因子は未解明である。 本研究では、痛み入力と情動を司る脳領域である前帯状回に着目し、前帯状回に投射するどの脳領域からの興奮性シナプスが持続痛モデルマウスにおいて投射選択的なシナプス可塑性を示すかについて、光遺伝学と電気生理学的手法を組み合わせて解析した。視床と扁桃体は、持続痛の身体的要因と心因的要因の両要因に関わる脳領域であり、これらの領域は前帯状回と双方向性のシナプスを形成していることが解剖学的に明らかになっている。従って、光感受性チャネルであるチャネルロドプシン(ChR2)を組み込んだアデノ随伴ウイルスをマウスの標的部位にそれぞれ局所投与して、感染3-4週間後に脳スライス標本を作製した。そして、感染を確認した後に前帯状回の第II/III層の錐体細胞からホールセルパッチクランプ記録を行いChR2を活性化させる青色光を照射して投射選択的なシナプス伝達を解析した。そして、視床ー前帯状回の投射を光遺伝学で頻回刺激した時に情動行動、特に不快感行動と疼痛関連行動が生じるかについて調べた。さらに、精神疾患および持続痛に関わる皮質と前帯状回間のシナプス伝達および行動変化を解析した。
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