研究実績の概要 |
造血幹細胞は顕著な血管再生・修復能を持つ。我々はその造血幹細胞を用いて虚血性疾患に対する再生医療を行って来た。また、造血幹細胞の血管再生メカニズムが、ギャップ結合を介し、造血幹細胞が障害された血管内皮細胞に対してグルコースやアミノ酸等の低分子メタボライトを供与することで、障害された血管内皮細胞のエネルギー代謝を活性化するものであることを明らかにした (Taura et al., stroke, 2020)。本研究は、ヒト末梢血白血球細胞に造血幹細胞と同レベルのエネルギーを付与し、外部へのエネルギー放出が可能な状況を作ることにより、造血幹細胞と同様の働きを有する末梢血白血球製剤の開発を目指すものである。 2年目までの成果において、成人のヒト末梢血は細胞組成に大きな差があり、機能向上する個体がある一方で、同じ条件で機能向上が見られない個体も認められた。また機能向上した個体もあくまで微増レベルの向上だったことから、方向性を変え、成人の末梢血中に含まれる造血幹細胞に着目して研究を行った。 成人の末梢血中にも造血幹細胞は微量(約0.01%)ながら含まれることが知られている。末梢血中の造血幹細胞は造血能を示さないことが知られているが、その働きについては明らかにされていない。そこでCD34 MicroBead Kitを用いて末梢血中のCD34陽性細胞を分離した。胎児末梢血の臍帯血では98%前後に純化することが可能なのに対し、成人末梢血の場合はCD34陽性細胞の含有量が少ないことから、純度は90%前後に落ちることが分かった。そこで、得られた成人の末梢血由来CD34陽性細胞1×105個を脳梗塞モデルマウスに投与したところ、顕著な神経機能改善効果が認められた。すなわち、成人の末梢血を循環するCD34陽性細胞は造血能を失っているものの、組織再生・修復能は保持していることが明らかになった。末梢血中における造血幹細胞の働きについて示した報告は、今回が初めてである。
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